WOTONAKICHI
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私の周りの偏愛者  VOL.1 果物を偏愛する男

偏愛・脳汁を語るサイト「ヲトナ基地」では、多数の「愛しすぎておかしくなるほどの記事」をご紹介してまいります。 ヲトナ基地で今回紹介する記事は「私の周りの偏愛者 Vol.1 果物を偏愛する男」。山田ノジルさんが書かれたこの記事では、とある男性による果物への偏愛を語っていただきました! 果物を「まるごと」愛する男。 贅沢に盛り付けられた、色鮮やかな果物。普通ならそれが目の前に運ばれてくると「わあ!」と歓声があがるところだが、大学生のH君はこう言う。 「カットしてあるそれに、興味がなくて」 H君は果物マニアとして、そこそこ有名人である大学生だ(この春から新社会人なので、「大学生」は当時の話)。「一日中、果物のことを考えている」と話すH君の果物愛は、友人たちから「果物好きだよね〜」と言われる程度の自分と比べると、もはや違う世界線にある。 H君が愛を注ぐ果物は「まるごと」でなくてはならない。 「果物は、ひとつで三度美味しいんですよ! 例えばリンゴの感触。触るとプラスチックでは再現できない独特のスベスベした質感が、品種によっても少しずつ違うのがわかる。さらに、形、色、香り。しかも、食べられる! 植物としての果実にまず興味があり、味はあくまで構成要素のひとつでしかない。だから、まるごとなのが大事なんです」 手触り、ビジュアル、香り、味で4度じゃないか? と思いつつ、偏愛者特有のバイブスが心地よく、口をはさまず永遠に聞いていたくなる果物トークである。口をはさむ隙がないのは、少し前で言うところの「オタク特有の早口&マシンガントーク」でもあるのだが、偏愛の対象がユニークかつ人柄が魅力的であるので、聞いていて、ただただ気持ちがいい。どうかしているエピソードに爆笑することもしょっちゅうで、私にとって偏愛者との交流は至福のひとときだ。 イラストや絵画ではメジャーなのに! と嘆く男。 生クリームもカットされたフルーツもあまり好きではないH君の前で、うっかりパフェを注文してしまった。「愚の骨頂」と思われないかと心配になる。 「私は企画展や美術館を観に行くのも好きなんですけど、そういう美術作品って触れないじゃないですか。でも、果物は触れる、香りもある、おまけに味わえる。最高! 美術で言うと果物は、絵画のモチーフとしてもポピュラーですよね。スーパーでも必ず売っている食材です。なんで皆、そこからもっと興味を持たないのか、逆に不思議で。だから私は果物の面白さを、もっと発信していきたいんですよね」 後日LINEグループで日々の雑談をする周りの友人らへ「果物をどう思うか」と直球で尋ねてみると、こんな感じであった。 「果汁顔ってわけわからん表現あったよな」「静物の代表」「手に入りやすく長時間動かないが華やかなので便利」「古典的、無難、おもしろくするのが難しいモチーフ、という印象かなあ。雑貨アイテムだとファンシーになっちゃって、やっぱりおもしろくなりづらい」「文学だとエロいものを匂わせるモチーフに使うよな」「ちんちんぼるとみたいな名前の……」「アルチンボルド※だ。ちんちんぼるとって刻まれちゃうからやめて」 ※植物や生き物を組み合わせる「寄せ絵」で知られるイタリア出身の画家。果物や野菜で構成された奇妙な肖像画が有名。 会話に美大出身の友人が混ざっているので話の方向が製作物方面に偏りがあるのはともかく、H君に怒られそうな方向にどんどん転がっていくので以下割愛……。と、雑談の方向はさておき、日常的な存在であるがゆえ、面白要素を加えないと話題として盛り上がりにくいってことですね。 H君も言うように、果物は、日常に溢れている。珍しい品種などは数あれど、そこに強い興味を持つほうが珍しいだろう。果物の面白さよりも、H君自身のおもしろさが発信されているように思えた。「朝の果物は金」「ビタミン補給」「皿の彩りに」「最近はやたら高い」 それくらいの意識でしか果物を見ていない自分とは、向き合い方がまるで違う。 私自身は異国の食材や料理が大好きで、そうした趣味のつながりから、周りにはさまざまな「偏愛の人」がいる。ジャンルは多岐にわたり、サメ、昆虫、イカ、廃墟、ストリップ、パンダ、ちくわぶ、スナック等々……。自分の価値観と独特な感性で対象に向き合う偏愛者たちは皆、とても魅力的だ。ここではそんな人たちとの出会いや、交流の記録などを書いていこうと思う。 旬の果物で、親子喧嘩が起こるワケ。 果物があれば、いつでもウキウキだったというH君 魅力的ではあるが、その独特さは時に周囲を困らせる。H君は中学生時代、よく親子喧嘩をした。 「あーんーたーはー!! なんで、食べもしない果物をこんなに買うの!!」 まだ見ぬ品種を手にしてみたいという情熱から、お小遣いをつぎ込み、ネット通販で果物を買いまくっていたという。しかも観察がメインで欲望が食に向かないので、一応データのために数口は食べるものの、キロ単位で手に入れた果物を、食べきれるわけもない。 親が不在の時間を狙って時間指定で宅配を受け取ったり、コンビニ受け取りにしたりなどの工夫をしていたというが、思春期に親バレしたくないものが、エロ本ではなく大量の果物というのが、さらに親御さんを困惑させそうである。しかもそうやって受け取っても、日本の住宅のひとつ屋根の下で大量の果物を隠し通すことは不可能だし。 「あんたは一体、何を目指してるの!」 ケンカの最中そう聞かれても「えー、果物に関わる人」と即答するH君。「どうしてこうなった?」と突っ込みたくなるが、H君の話では「物心ついたときから、オモチャでなく果物で遊んでいた」というのだから、親としても納得オブ納得だろう。ぐぬぬ……と黙らざるを得ない、親御さんサイドに深く共感してしまう。 H君が記憶している、一番古い記憶は「果物箱に入っている自分」。「オレンジとナシのビジョンをぼんやり覚えていて……果物にハマったのは、あれがきっかけじゃないのか」。そう振り返っていた。 積み木を積み上げるがごとく、カゴに果物をあしらってご満悦の赤子。赤子というものは一時期、大人には理解できないものに執着することが少なくないが、そこから途切れず成長したH君。初期のそれが既に偏愛の芽だったとすると、覚醒早すぎだわー。曹丕(そうひ)※の生まれ変わりじゃなかろうかー。ちなみに、親御さんが果物に関係する職業というわけでもないそうだから、謎深い。 ※三国時代・魏の初代皇帝。大の果物好きであるエピソードが知られている。 そうして当然&必然により、大学は農学部へ進学。研究の道へは進まず、まずは消費の現場だと、この春からは果物の輸入・販売を行う超有名会社へ就職した。就職活動も「他の職種など考えられぬ」と1社のみ受け、見事採用された。偏愛力で我が道を作る、ロード・オブ・ザ・フルーツや。マジで、眩しいぜ。 私がH君と出会ったのは、友人宅での集まりだった。とある行事のテーマに果物が必要で、誰もが信頼をするその手腕で調達してくれたのだ(大分季節外れの種類もあったのに)。私は気まぐれに参加したので、何が行われるのか事前に把握しておらず、友人宅のリビング机上に積み上げられた果物の山を見て唖然となった。 H君は皆が「すごい!」と騒いでいるのには我関せずで、小ぶりな柑橘類をひとつ食べ「コレはマジで飛ぶ!」と力説していた。おや、そんなにヤバいブツなのか……うひひ……とウキウキで口にしてみると、拍子抜けしてしまった。確かにとても美味しいが、「飛ぶ」とまでの感覚が、正直わからなかったのだ。しかしH君は20代の大学生。こちとら子育てと仕事に疲れ果てた40代。コンディションも味蕾の数も、全然違うだろう。 若者に共感できなくなった自分への失望をひしひしと感じて肩を落としたが、その後深夜まで続く変態じみた果物談義に、ああこの人は偏愛偏差値エベレストなんだと理解した。同じ世界を見れなくて当たり前。別の世界線から偏愛の輝きを眩しく楽しませてもらおうじゃありませんか。 愛するリンゴ……だが、モチーフは愛でない理由。 並みならぬこだわりから「果物はスーパーで買わない」という。卸の市場へ常に足を運び、生活費をつぎ込む。「映画は高い、昼は100円のおにぎりで、でも果物は1回3000円前後ならOK」という価値観だ。 H君曰く、果物の中でも特にリンゴを愛しているという。以前も「おみやげに」とひとつ、真っ赤なリンゴをくれたことがある。あらやだ、お高そう。 「わーきれいー、ツヤツヤー」 頭の悪さ&ボキャブラリーの貧困さを丸出しにした感想を口にしても、「コレ、天然のワックスですよ! ホントすごいですよね〜!」とニコニコ嬉しそうにしている。頂戴したリンゴはビジュアルだけでなく、味も衝撃的だった。近所のスーパーでお手頃価格で並んでいるものとは、別次元。香りが濃厚で、酸味と甘みのバランスが絶妙すぎる。こんなものを子どもに食べさせたら、安いリンゴを食べてくれなくなるじゃないか! けしからん、実にけしからん! と、子どもが学校から帰って来る前に、ひとりで全部たいらげた。 好きなもののモチーフを身につける、というのもよくある楽しみ方だが、それへのスタンスもH君のガチ勢っぷりが現われている。リンゴの話からうっかり「アップル製品に親しみを感じたり、リンゴ柄のものを身につけたりするのか」という愚問を投げたことがあるが、「別に私自身が果物になりたいわけじゃない」と冷たく言われてしまった。「モチーフを買うくらいなら、本物を買う」。納得です。 以前H君がメディア出演した際も、「何かリンゴモチーフのものを持ってきてくださいよ」とリクエストされたことがあったという(一般には非常によくあるリクエストだ)。そこでH君が収録現場へ持って行ったのは「リンゴの品種が掲載されている専門書」。製作スタッフの「あー」という顔も目に浮かぶ。 「だって、リンゴといえばコレでしょう!」 いいぞ、もっとやれ。でも放映には、その本は映らなかったそうだ。 H君は取り寄せた果物を消費するために、度々食べ比べイベントを開催していた(就職のため、現在はいったん終了)。するとそうした集まりには、「自分も果物大好きです!」と、果物モチーフを身につけている人もたくさん参加する。H君はそれを見て「自分とは違う」と、大きな違和感を覚えるのだとか。他人の楽しみ方は決して否定しないものの、自分にはわからない感覚なのだと話す。 北海道へ旅行した際も、有名な観光施設は素通りし、お目当ての農園へ行きそこからまっすぐ帰ってきたという。「せっかく北海道まで行ったのに!」と笑う私に「いや、よっぽど時間があるときは行きますよ……」と少し困った顔をしていた。よっぽどじゃないと、行かないのか。 度々、そうした違和感を覚えるからだろうか。「たまに、一日中果物のことを考えていないような、普通の人になりたいときもある」という。しかし凡人サイドとしては、社会の中で偏愛が織りなす快進撃を、ぜひ見せてほしい。新たに仕事として関わっていく中で色々と変わっていくこともあるだろうけど、果物に対する偏愛級のまなざしはとても魅力的なので、いつまでも変わらず……いや、ますますパワーアップされていきますように。中年の身勝手な願いではありますが。

【30日間チャレンジ】初心者が麻雀マンガだけを読んで、どこまで上達するかやってみた

どうもどうも! 前回、麻雀モチーフの可愛さを力説して以降、麻雀牌(マージャンパイ)の虜になっている私です。 あれ以降、あれよあれよと沼にハマって、気づけば麻雀ネイルしてたわよね……。仕事中に爪を眺めて「可愛い~~」ってやってます。 で、これだけ麻雀がそばにあれば、ゲームそのものに興味が湧いてきますよね。 興味本位で麻雀のプロリーグ戦「M.LEAGUE(通称Mリーグ)」を見るようにもなりまして……。 そしたら、私、びっくりしたのよ。 すごいのね、麻雀って。 ものすごいスピードでゲームが進むんですよ。 牌を手に取ったら瞬時にどの牌を切るか決めてすぐポイってするわけ。その速さたるや……!! ルールや役は全然分からないんだけど、解説や実況も面白いからつい見ちゃうんですよね。 で、見続けていたら、自分でもやってみたいという欲がふつふつと湧いてきまして。 でも「よくある麻雀の本は初心者は離脱しやすい」と聞いたのね。 そこで私は考えたんです。 「マンガだったら離脱せずに、楽しく麻雀を学べるのではなかろうか!!!」 これだわ!!! でも、ただマンガを読むだけじゃ面白くない……。 どうせなら、最短で上達するために、あれこれ条件を設けて実際に麻雀を打ってみよう!!! ということで、今回は初心者が麻雀マンガを読んで、どこまで上達するかやってみた! です! 私の成長を見守ってくだされ〜〜。 まずはマンガを決めるよ~~ まずは、私の麻雀デビューを華々しく飾るための麻雀マンガを決めようではないか。 有名なのは『アカギ 〜闇に降り立った天才〜』『麻雀飛龍伝説 天牌(テンパイ)』あたり。麻雀を知らない私でも、このマンガの名前は知っているゾ……! 最近話題になっている麻雀マンガは『ぽんのみち』『雀児(じゃんじ)』ねー。 https://twitter.com/ponnomichi_pr/status/1753976670652924392?s=20 https://twitter.com/kazuki_hira/status/1656646861305044993?s=20 どうせなら、話題になっているマンガがいいなぁ~。 よし、インパクトで決めよう! (考え中~~~~) んんん!!!!???? 子どもが……麻雀をしている……??? ぽんのみちは、「女子✕麻雀」で割とありそうな題材。 雀児は「園児✕麻雀」とな。斬新で面白そう! よし、教科書は『雀児』に決定!! ちなみに『雀児』はマンガアプリ「少年ジャンプ+」で配信されていたマンガ。 https://twitter.com/kazuki_hira/status/1610473031381692417?s=20 全25話で完結済みです。 最初に言っておきます。この漫画、幼稚園児がお遊戯をするかのごとく麻雀を打ちます。 それも一人だけではなく、園児みんなが麻雀卓を囲んで解説までできるレベル。その中で桁違いに上手いのが主人公のジャンジ。そして、そのジャンジの担任なのがヒロインかつ麻雀初心者のナコ先生です。 (このとき私は知る由もなかった、このマンガが30日間チャレンジに大波乱をもたらすことになるなんて……) 30日チャレンジのルール さて、次は30日チャレンジのルールを決めます。 そもそも私が初心者過ぎるから無理なく挑戦できるように、経験者にアドバイスをもらいました~~! 雀児から役やルールを学ぶ 期間中はマンガを何度も読み直してOK 雀児で知った役の詳細を調べるのはOK CPUを使った練習卓で実践(東風:南場なし東4局) 場風などのルールは一旦無視 指定の「役」を作ることだけに専念する オーラスまでに1局でもアガれたらOK とりあえず、マンガを読んで得た知識を使って、「役」を作ることに専念すればいいのね……! よし、じゃあまずは第1週から! マンガを読んで練習してみるぞ~~~! ※今回、『雀児』を読んで麻雀牌の名前や基本ルールについても知識を得ましたが、本記事ではその経緯については割愛いたします ※本記事は、ガチの麻雀初心者が実践・執筆していますので、ツッコミどころも多いかと存じます。経験者の皆様におかれましては、温かい目で見守っていただけますと何卒ご幸甚です(土下座) 使用アプリは「麻雀格闘倶楽部Sp」に決定 そして、今回はスマホアプリを使ってプレイします。使用アプリはKONAMIが提供する、オンライン対戦型麻雀ゲーム「麻雀格闘倶楽部Sp」。 ちなみに、「麻雀格闘倶楽部Sp」は日本プロ麻雀連盟公認の麻雀アプリ。 アーケード版麻雀ゲーム「麻雀格闘倶楽部」シリーズを、スマホ版に展開したのが「麻雀格闘倶楽部Sp」です。初心者から上級者まで楽しめるのはもちろん、プレイ以外の要素も充実しているので、アバターの着せ替えを楽しんだり、限定アイテムをゲットしたり、アーケード連動してリアルでも楽しめたりする充実っぷり。 気になる人はぜひダウンロードしてみて! 公式サイトはこちら 麻雀人生開幕!え、ちょっと待って…!? 「華々しく私の麻雀人生スタートよ!」 まずは麻雀の知識をつけるためではなくて、純粋に読み物として『雀児』を楽しむぞ~。 1ページ目から 「大三元(ダイサンゲン)」 「ツモ」 「役満(ヤクマン)」 とか専門用語が飛び交ってる……! https://twitter.com/kazuki_hira/status/1654356843886678017?s=20 って、おおお? 大人に勝ったのは4歳児の主人公なの……? あっ、ヒロインのナコ先生かわいい〜! うんうん、園児と一緒に麻雀やるんだね~。 ……(1話目読了) …………(10話目読了) ………………(最終話読了) ……………………。 はい。 すでに『雀児』を読んだことがある人ならお気づきでしょう。 これ、単なる麻雀マンガじゃなくて、イカサマ麻雀マンガだわ!!!! 肝心の役の作り方の説明がないのよ。 麻雀って、図柄を揃えても役を作らないとアガれないのね。 いかん。これはまずい……。 初心者でルールもわからんのに、 イカサマの知識だけ増えて行くんだけど???? ほんで、主人公の雀児はほんとに4歳なんか? コナン的なアレで、中身は大人なんじゃない??? インスピレーションでこのマンガを選んだ自分が憎い(号泣)。 ストーリーは面白いけど、麻雀を練習するためのマンガじゃなかった……。 オワタ\(^o^)/ いや、ところどころルールの説明もあるし……。 あきらめるな私……! たくさん読んで、マンガからヒントを得るのよ!!! このままでは企画が頓挫してしまうので、 ルール説明がある回をマジで50回以上は読み直しました。 で、1話目に読者たちから作画ミスでは? と総ツッコミがあり話題になった、「断么九(タンヤオ)」ならいけるんじゃね? タンヤオは「麻雀牌の中で2~8の数牌だけを使って手牌を揃えると成立する役」。 1と9、字牌(ツーパイ/白発中、東西南北)は無視していいので、初心者でも揃えやすそう……。 最初だし、まずは、タンヤオを揃えてアガリを目指してみたいと思います! 気分はヒロインのナコ先生!! さぁやるわよ!! タンヤオ狙いでいざ実践! 早速タンヤオを狙っていくぞ。 この場合だと、まずは字牌がいらないのはすぐに分かる。 鳥さん(索子の1)もいらないね。 ふふふ♪ こうやって解説できるなんて、なんか、それっぽいじゃないの。 『雀児』を読み込んで、タンヤオの作り方は頭に入っているぞ~~~! この調子で役をじゃんじゃん完成させていきましょう!(麻雀だけに) チーとかポンとかよくわからないので、促されるままやっています。 この画像を経験者に見せたら「最初は鳴かない方がいい」って言われたよ! 鳴くって何だろうね? 手牌(テハイ)にいる鳥さんを最後まで手放しちゃダメってこと? でも、タンヤオって、1いらんやん? そして「タンヤオは他の役と組み合わせないと、単体じゃあまり使う機会ないよ~」とも言われたのだけど……。 「うるせぇ! こちとら、その域まで達してないんだわ!!」の気持ち。 まぁ、始めたばかりだしね。 あれこれ詰め込んで苦手意識芽生えてもですし。 まぁいいか、進めよ~~ってしていたら、相手にあがられてしまった……! 残念! はい、みなさん! ここから地獄のはじまりです。 4日目までタンヤオを揃えることができませんでした……!!!! アプリではいろんなモードがあるのだけど、 初心者の私にオンライン戦はハードルが高すぎるので、練習場でCPU相手にプレイしています。 仕様は東風(トンプウ)。東風とは、南場なしの東4局まで。つまり、4試合で1セット。 1日のプレイ回数は大体10セット。 ということは、1日に40試合をこなしている計算です。 で、4日やってもタンヤオならず。160試合だぞ???? 麻雀はとにかく実践あるのみとはよく言ったものです。 あがれない理由ははっきりしている……。 役が完成するまでに相手にあがられてしまうのだ。 ほら、これとか惜しいじゃん。 萬子の3待ち これも、 萬子の6、筒子の5.8待ち これも、 索子の4待ち ほんと「あともう少し~!」というところであがられてしまうんですよね~。 でも、回数を重ねていくうちに、タンヤオの作り方は完璧に覚えた! 毎日何度も雀児をみて、牌の名前やルールも確認したしね。 あとは、そのときを待つのみ……!! 162試合目、ついにそのときが…!!! 実践5日目。 今日もせっせとタンヤオを目指していきます。 もう、5日目になるとスマホ片手にテレビを見たりして完全に流れ作業。 全然あがれないから、次の役を覚えて手数を増やしたいよね〜。 なんて思っている矢先、ついにチャンスが……! 開始早々、4巡目にまさかのーーー!! アガリ!! きたーーーーーーー!!!! ついにタンヤオであがれたぞー!!! 888888888888 この通り、タンヤオであがれています!! そしてドラ1もついている。 ですが、初心者なのでこのドラ1が何なのか分かっていません! ドヤ 役を作るとそれに応じた点数がもらえることは分かっているのですが、これも、ドラと一緒で今後勉強していかないとですね。 総評 思った以上に成長がゆっくりだったため、30日麻雀チャレンジはここでおしまいです。 麻雀を初めて1週目にしては、基本ルールとタンヤオを作ることができたので、上出来ではないでしょうか? このあと日課にしているMリーグを見ていたら、タンヤオと他の役を組み合わせた複合であがっているのを見かけました。 役をひとつ覚えるだけなのに、解像度があがるので今後さらに楽しくなっていくのかなとわくわくしています。 さぁ、次は「別の役」を作ってみたいと思います。 またしても『雀児』に振り回されることになるのか? 続きがあれば、お楽しみに! 協力:コナミアミューズメント ©Konami Digital Entertainment ©Konami Amusement

自衛隊の「謎水装置」回避は消費者保護へと繋がるか

偏愛・脳汁を語るサイト「ヲトナ基地」では、多数の「愛しすぎておかしくなるほどの記事」をご紹介してまいります。 ヲトナ基地で今回紹介する記事は「自衛隊『謎水装置』回避は消費者保護へと繋がるか」。黒猫ドラネコさんが書かれたこの記事では、疑似科学への偏愛と、それを注視することについて語っていただきました! またもや「疑似科学」の疑いに対して世間の厳しい目が向けられることになりました。 今年1月、陸上自衛隊練馬駐屯地に「NMRパイプテクター」なる磁気活水器が導入されるという入札公告の情報が科学者ら有志によって発見され、ネット上で大きな話題に。国会議員まで動く事態に発展し、すぐに入札が回避されました。 論争が起こる「謎水」 この活水器は日本システム企画株式会社が1995年から販売しています。核磁気共鳴(NMR)により水を活性化することで水道管のサビを取り、外部電源もメンテナンスも不要で「建物の中にある給水管や空調管など水配管の寿命を建物寿命まで延命」でき、その累計実績は4300棟以上(2022年3月現在)。ただし、これらは販売元のホームページなどからの引用です。 価格は1台約30万円~数千万円。公的機関や分譲マンションなどを販売先とし、既に病院や大使館などでは導入が確認されているそうで、なんと同社ではバッキンガム宮殿への導入も実績として挙げていました。 こちらが数年前から、ネット上では「疑似科学ではないか」と厳しく指摘されています。ネット上では「謎水装置」と呼ばれるようになりました。 「謎水装置@自衛隊」togetter https://togetter.com/li/2299936 前回のテーマだった「EM菌」と同様、有識者らと販売元などとの間で、たびたび論争が繰り広げられているのです。 販売元はホームページ上で「効果の測定には様々な方法に対応し、いずれも数値で観測できるため一目瞭然の効果です」などとしていますが、その実験での再現性などには疑義があるようです。狭い範囲で称賛されていたものが、疑念を抱いた名もなき有志によって分析され、それにまた反論が湧き上がり……。 たとえば活水器の現物を入手したとして分解しちゃう模様をYouTube動画にする者が現れたかと思えば、すぐに販売元が「偽造品ではないか」と表明していました。どちらの言い分に理があるかは置いといて、前回も言いましたが、こういう案件は私の大好物です。(きっと好きな人も多いはず) (前回記事) https://www.maruhan.co.jp/east/media/new/189 ゆっくり解説「NMRパイプテクターを分解してみた」 https://www.youtube.com/watch?v=HEkh9PYTX_U NMRパイプテクターについてのお知らせ「当社製品の偽造品にご注意下さい」(日本システム企画サイト) https://www.jspkk.co.jp/jp/product-caution/ 謎水まんが かくいう私も、数年前からこの活水器や販売元の動向をウォッチする方の発信から、この問題を知ることができました。その名も「謎水さん」。自宅マンションに活水器が設置されたことがきっかけで「ニセ科学」をめぐる問題に取り組むようになった彼は、自治体への取材なども精力的におこなっています。 マンションに導入しようとする管理組合とのやりとり、販売元とのいざこざ、消費者センターへの問い合わせなどを「謎の水装置まんが」としてネット上に発表し、注目を集めました。この漫画は当事者の目線から、しかも誰の身にも起こり得る危機に関しての分かりやすさが重視されています。ニセ科学の手法や構造なども取り上げられていました。 検索して謎水まんがに辿り着けば、「こんな指摘をされている装置だったのか」と、多くの人が立ち止って考えるきっかけにはできるでしょう。 (謎水の水装置まんが)URL https://nazomizu.com/html/comic/main/ それでなくても消費者問題を顕在化させるのは意義のあること。実際に製品に接した人からの賛否両論があって、それらを判断材料にして選択することによりわれわれは健全な消費生活が送れるわけですからね。どんなシロモノでも、販売元の一方的な言い分だけを信じちゃダメなんですよ。 批判者への牽制 しかし当然ながら、売りたい側もあの手この手で「ネットの噂」を打ち消しながらPRするわけで。そもそも疑わしい点があろうと、なんやかんや言いくるめられるから公的機関が導入を検討するまでに広がるのです。密室で契約を取りつけたなら、疑念を抱いたり指摘したりする人が契約者の周囲にいても気付かないと思います。それこそ入札公告でも見つけない限りは。 それに加え、日本システム企画は自社サイト内などで批判した科学者らを名指しで牽制しています。悪評を削除するようにと、訴訟をほのめかす手紙を送るなどしているようです。これが製品への疑義を委縮させる目的だとしたらいかがなものでしょうか。 消費者基本法では「批判的意識を持つ責任」「主張し行動する責任」などが掲げられています。それらを打ち消そうとするなら、余計なお世話かもしれませんが、ますます不信感が募るだけだと思いますよ。 この件に限った話ではなく、こうした動きは「疑似科学の疑い」にはつきもの。完膚なきまでに納得させる科学的根拠を出せば済むはずなのに不思議ですね。それが出せないなら、指摘する声や疑いの目のほうが強いのは当然でしょう。 問題視が認知されるか さて、今回の自衛隊の導入キャンセル騒動は、この活水器が「なんだか問題視されているもの」として、ネットだけでなく実社会に広く認知される分水嶺となるのでしょうか。 販売元の広告が都営地下鉄の車内などに出され続けていることについて、東京都議らが情報収集を始めています。感触を聞いたところ、例えば都の施設で導入しようとした場合であれば「陸自と同じように入札契約制度としてNGになる可能性は高い」。ただ、東京都交通局や生活文化スポーツ局消費生活部などに問い合わせても、明確な広告のガイドライン違反ではなく対処しきれていない状況とのこと。どうやら広告に異議を唱えるような問い合わせがあるたび「内容の微修正」が繰り返されるということで、「制度の隙間を掻い潜っている」そうです。 消費者庁の見解では、優良誤認が生じる恐れなどの景品表示法の適用は一般消費者の個人向けに限られ、マンション管理組合や企業が相手では対象外。それもあって、たとえば「外部電源なしメンテナンス不要で半永久的に」などとする強めの文言があっても、自治体は広告をどうにもできないのです。 自衛隊が導入を取りやめる程の事態になりながら、販売元の宣伝は今日も堂々と万人の前に出されています。消費者保護とは何なのかを考えさせられますね……。 ただ、この問題については既に国会議員が動いていて、防衛省、消費者庁などのヒアリングも行われたようです。自治体や国もこれから注意していくことになるでしょう。引き続き、有志の厳しい目で製品の評判を俎上に載せ続けることで、本格的に条例や法の整備へと巨石を動かすことに期待したいですね。 こうした流れに抗いたいのであれば、繰り返しになりますが販売元は「恫喝」みたいなことをせず、しっかり科学的事実を提示して堂々としてほしいと思います。科学が風評に負けるようではいけません。科学じゃないなら、知らんけど。  少なくとも私は、自宅マンションの集会の案内があるたび「うちは謎水装置じゃないよな」と修繕の資料などをしっかり確認するようになりました。皆さんのお家や、学校や職場はどうでしょうか。
その役目についていることによって得られる特別の利得や特権

人の経費で高級和牛とスーパーの牛肉を食べ比べてみた

偏愛・脳汁を語るサイト「ヲトナ基地」では、多数の「愛しすぎておかしくなるほどの記事」をご紹介してまいります。 ヲトナ基地で今回紹介する記事は「人の経費で高級和牛とスーパーの牛肉を食べ比べてみた」。普段は高級な食材を味わう機会があまりないという、文筆家のまくるめさん。そんなまくるめさんが、いつも食べている牛肉の約10倍の価格の高級牛肉を食べたとき、一体何が起きるのか!? この記事では牛肉への偏愛……かと思いきや、誰もが好きであろう「〇〇」への偏愛を語っていただきました! 先に謝っておきます お詫びして頭を下げる男性の無料写真素材/ぱくたそ えー。今回はタイトル通りの内容でございます。 これは、「三田牛」と「但馬牛」という非常に美味しい高級和牛を人様の経費で購入いただき、「タダで食べられてンマーイ! いやあ、人の金で食べる肉は最高ですなあ。それはそうと、貴方なんでこんなもの読んでるんですか?」という内容の記事です。ほかに仔細なし。文句を言われると困るので、先に書いておきました。 なので先にとりあえず謝っておこうと思います。 申し訳ございません。 以下、やんごとなき読者の皆々様におかれましては「何だこの書き出しは?!」「俺は何を読まされているんだ?」などといった感想が脳裏を去来すると思います。ですから、わたしは先に謝っております。 どうかコメントのさいは、この点を加味し、厳しいお言葉をいくらかお控えになって、地蔵菩薩のような心持ちで感想を書いていただきたく存じます。はい。そうです。先に謝ったやろがい。と、こういうことでございます。 ……あ、怒ってます? お怒りの方は、とりあえず、かわいい猫ちゃんなどを思い浮かべながら5分ほど深呼吸してからコメントされるとよろしいかと存じます。15分だとなおよろしいです。 というのも、怒りをつかさどる物質であるアドレナリンは、動物にとって緊急事態に対応するためのホルモンです。その性質上、作用はあまり長続きはしない傾向があり、時間経過で落ち着いてきます。 カッとなっても、しばらくすると後悔する原因がこれです。これが最近流行りのアンガーマネジメントというやつの原理でございます。そんなわけで、あまり怒らないようによろしくお願いいたします。お願いしましたよ。 ……さて、初手からもうグルメ関係ないだろって話を始めてしまいました。なぜわたしは高級牛肉の味について書けと依頼主から注文されたのに、アドレナリンの話から入っているのでしょうか? そして読者であるあなたは、なぜそれを読まされているのでしょうか? われわれは今、あきらかな不可解に直面しています。 しかし、もはや日常でこの種の齟齬は珍しくはないということに注目すべきです。上記の乱文は、実はそれを表現するためのいわばデモンストレーションだったと言ってもいいかもしれません。 考えてみてください。現代社会は自己増殖的に複雑になりつづけています。もはや社会全体を見渡せる人間は一人もいないでしょう。見ているあいだにも変化し続けています。このような時代にあって、前述の問題などは大したことではないわけです。 では、わたしたちに必要なことはなんでしょうか。それは、むしろ急速な時代の変化のなかでも不変なもの、少なくともそうであると信じる価値のあるものを、ゆっくりと時間をかけて、ひとつひとつゆっくりと見つけていくことではないでしょうか。 そのような、時代のシフトに対してロバストな、いわば「定点」をいくつ見つけられるか。それがこれからの人間がやるべき仕事だと思います。 いつの時代もみんな大好き、それは……! そんなわけで、いつの時代も変わらないものを見つけましょう。 その例をひとつ、わたしは提示します。 わたしは一応、当コーナーの原稿を依頼されるにあたり、依頼主さまからは文章のテーマを「偏愛」とするよう仰せつかっております。つまり、わたしが個人的に愛を注ぐものについて書くというテーマの記事なのです。これは。なので第1回は、アリと共生する不思議な植物について書いております。 さて、ここで、もしかすると理解力がプラトン並みに優れている方はこう思われたかもしれません。「え? それじゃあ、今回のタイトルとテーマが合わないんじゃないですか?」と。 そうですね。わたしは牛肉が好きですが、「あれば食うし、食べれば美味しい」というぐらいで、偏愛というほどのものではありません。いわば牛肉に対しては必要十分な愛情しか感じていないと言えます。はい。牛肉とは身体だけの関係です。 では、この記事は「偏愛」を扱っていないかといいますと、実はそうではないのです。というのも、この記事には一見するだけでは分かりづらい裏のテーマがあるからです。 では、隠されたテーマとはなんでしょうか? ヒントを出させていただきますと、これはわたしだけではなく、日本人全般がだいたい好きだと思います。いや。もっと主語を大きくしてもいいかもしれません。主語を東アジア人全般にしてもそれほど間違ってるとはいえません。 いや、あるいは全世界的に、人類はこれが大好きと言っていいと思います。それぐらい主語を大きくしても大丈夫でしょう。さらに言えば、過去の人類も現代人も、そして未来の人間も、だいたいこれが大好きだと思います。 ここまで主語を大きくできる「それ」はなんでしょうか? え? わかった? ふむ。だとしたら、おそらくあなたはこう考えたのではないでしょうか? この話の流れとタイトルから、これしかあり得ない、と。 問題の答え、それは「人の金で食う肉」だろう。と。 ……惜しい! 非常に惜しい! それは正解ではありません。しかし正解に近い。いくらかのミスリードがあったとはいえ、もしあなたがそう答えたのなら。あなたは非常に物事を分かってらっしゃると言っていいでしょう。いわば分別というものがある。重要な物事の多くを人生から学んできたことでしょう。 では正解はなにか? ……答えは「役得」です。 スポンサーから物品を寄付してもらいました。これは売上になるのでしょうか?の無料写真素材/ぱくたそ そうなの。 ためしに「役得」を辞書で検索すると「その役目に従事しているために特別の便宜があって得られる利益」とあります。ああ、もうこの響きだけでたまらないですね。特別の便宜! なんと甘美な言葉でしょうか。 世間には「役得」が溢れています。大きいものから小さいものまで。そしてみんな、基本的にはこれが大好きです。 たとえば、食品を扱う仕事をしていると、余りものが食べられることはよくあります。まあすぐに嫌になるとはいえ、役得の例と言っていいでしょう。 たとえば、株主総会というきわめて真面目で資本主義の根幹たる会合に行くと、自社製品がおみやでもらえたりします。 たとえば、出張先で会社の経費で特定のホテルに泊まると、領収書と一緒に不思議なクオカードがついてきます。 たとえば、金融機関につとめていると、ふしぎなお金が……冗談です。こないだ捕まってましたね。 まあ最後のはともかく、「役得」はもうみんな大好きです。なにしろ「わたくしは天下国家のために働いている真面目な社会人でございます。あー大変だ。実に忙しい」みたいな顔しながら、いい思いができるんですからね。コタツでアイス食うようなもんなんだ。ええ。 さて、役得でいうと、ライターなんてのは美味しい思いをする機会が少ない仕事の部類です。人と違った経験ができるとか、平日に動けるとかはありますが、そんなのねえ、クオカードやマイルに比べたらねえ。 そんなわたしが、今回、記事の執筆にかこつけて人様の経費で肉が食えるんですからね。盛り上がらないはずがない。 えっ、共感できない? 人の金で食う肉が嫌い? 特殊な思想をお持ちの方かな? 最高級の牛肉、届く 今これを書いているわたしは、まだ肉を受けとっていない状態にあります。 そんな私がいま原稿の片手間にフライパンにのせているのは、消費期限が3月17日の鶏むね肉です。ちなみにいまは3月22日となっております。半額引きでとりあえず買ったんだけど、忙しくて自炊できなかった。5日はけっこう自分の中でもヤバいほうです。 古くなった鶏肉って、だんだん味が鶏卵に似てくるんですよね。タンパク質が分解してるからなのか、卵の黄身みたいな風味になる。流行りの熟成肉かな。しかし5日はちょっと自分にとっても未知の領域です。少量食って一日待ち、体に異常がないか確認し、それから残りを食おうかな……。 ……と、思って毒見したところ、味覚と嗅覚が揃って「あかんわ」と言いました。異臭を通り越して、なんかの薬液みたいな臭いがします。あと、味がなんか苦い。肉が苦いのは初めてです。もったいないけどあきらめました。救急車とか呼んで社会のコストを使うのも申し訳ないですからね。ガイアが私に捨てろと言っている。 ……とまあ、そんなことをやっていたら、最高級の牛肉が届きました。 その役目についていることによって得られる特別の利得や特権。(「デジタル大辞泉」より) 今回、わたしの懐を痛めずにいただけるお肉は「但馬牛」と「三田牛」という和牛でございます。末端価格は100グラムあたり1,000円を超えています。たかい。麻薬かな? ちなみに、大麻の末端価格は1グラムあたり5,000円前後(検索により出てきた参考価格)で、純金の価格は1グラムあたり12,000円弱(執筆している2024年3月時点、田中貴金属のサイトをもとにした参考価格)、金属プルトニウムの価格は1グラムあたり165万円(アメリカ合衆国エネルギー省の2020年度の資料を参考に1ドル150円とした参考価格)なので、麻薬や純金やプルトニウムに比べたら安いですね。 なお、「普通のお肉も買って比較してください」ということで、別途そのお金もいただきました。近所のスーパーでオーストラリア産の輸入牛肉、100グラムあたり200円ぐらいのものを買わせていただきました。この比較用の一般牛肉ですらわたしにとっては高級食材という事実! ちなみにふだん私の食っている肉の値段は、値引きシールなども加味してだいたい100グラムあたり44~100円ぐらいです。グラム価格が3ケタになると高いと感じますね。つまり今回のお肉はわたしが普段食ってる肉の10倍の値段です。気迫充分です。 ……なんだろう。こんなこと書いてると、ふっと思うんですよね。 わたしもけっこういい年なんですけど、周囲の同年代の人とかもうけっこう偉くなってたり収入もいいんですよね。その分自分はやりたいことやってきたんで全然いいんですけど、こういう生活の基本のカードがまず違うんだなーってなりました。 ネットで有名な白木屋のコピペってのがあって、まあ出世した人が出世して無い人と白木屋で飲むみたいなやつなんですけど、それに近い気持ちというか、わたしだけ上京直後そのままで、時間が止まったみたいだなって思いました。たぶんみんながどんどん強くなっていったときのヤムチャとかって、こんな感じだったんでしょうね。 普通の牛肉と、高級和牛は何が違うのか? 親の目より見た、オーストラリア産の赤身 まあ重い話はさておき、肉を食いましょう。まずは比較対象のオーストラリア産の肉と、同じ形状の高級和牛の薄切り肉2種を食べ比べてみます。 まず食べてすぐに分かるのが香りの違いですね。とくに脂の香りです。よく、肉の味にはその動物が食べてきたものが反映されると言いますが、正確には脂に反映されるといったほうがいいでしょう。 油脂の質は食品の香りに影響します。脂はその性質上、揮発性のある香り成分を溶かし込む形になりますからね。最近はカップラーメンなどにも調味油がよく利用されていますが、脂をうまく利用することで従来は維持しにくかった香りを再現する意図を感じます。このように脂は「香りの運び屋」と言えます。 さて、オーストラリアの安い牛肉の方は、特有の臭いにおいがそれなりにあります。今回、味を分かりやすくするために何もつけずに食べたので、余計強く感じます。 輸入牛肉はしばしば牛肉特有の臭いが強いですが、これは草食動物の体内で牧草などが発酵した結果生まれた物質に由来します。「草食動物の肉は臭いがない」っていうのは、実は俗説なんです。「グラスフェッド」と呼ばれる牧草飼育の牛はとくに強くなります。 これ自体は異常なものではなく、スパイスやワインやトマトなどを用いる料理ではむしろコクになる面もありますが、日本人はこれを好まない人が多いのも事実。とくに和風のあっさりした味付けとはあまり相性がよろしくないですね。 一方で和牛の方はさすがに日本人好みというか、マイナスに感じる臭いはほぼありません。もし何も知らずに食べたら別の生き物の肉と感じるでしょう。脂の香りはミルクとナッツをあわせたような感じで、ホワイトチョコレートを思わせます。 食感についても、和牛の方はやはり口の中で自然にほぐれるような感じがあります。これはやはり肉の元々のやわらかさにくわえ、均等に入ったサシによるものが大きいでしょう。味も、コクを感じさせつつも、脂のわりにしつこくない印象です。個性はあるのにクセはないという品を感じるお肉でした。 但馬牛と三田牛も食べ比べてみた 高級和牛を焼いたもの さて、次に厚めに切られた肉で、和牛同士の比較をしてみます。今回、但馬牛と三田牛というそうです。わたしは肉の産地名とかにうといので、どこがどうとかはあまり分からないのが正直なところです。 いただいた説明によれば、どちらも兵庫県の牛肉ですが、三田牛のほうは但馬牛として生まれ育った子牛の中でも、特に一定の基準を満たしたものらしいです。まあ洞窟マムルみたいなもんですかね……。 その2種類の食べ比べ……ということなんですが、さすがにこのレベルになるともうどっちもうまいから正直わからない。 ただ脂の風味としては、但馬牛よりも三田牛のほうがより淡い感じというか、脂が多いわりにさっぱりとした印象が強いですね。その分、後味としてミルキー&ナッツィーな風味が追ってくるのが、よりはっきりわかります。 肉を食って救われよう 虹色の背景のぼやけた画像/O-DAN そんな風に味わっていると「あの感覚」がやってきました。 糖分を一気に補給するとシュガーラッシュになるのと同じ感じで、牛肉を食べると、謎のテンションが来ますね。牛肉ラッシュというか。脳汁が出るというやつです。 今、血の中をグングンと肉の分子が巡ってる感じです。これを書いている今は夕方5時ですが、この時間になるまでなにも食ってませんでしたから、もうすごいものがあります。 やっぱちょっと薬物性があると思うなこれ。チョコレートやコーラや中トロの握りに薬物性があるのと同じようなものが和牛にもあると思う。 どんどん、和牛がキマってきました。 今、これを書くのに向き合ってるモニタが、もうぱあっと明るく見えてきます。文字の輪郭もいつもよりシャキッとしているし、キーボードのキーは指に吸い付くようです。白く光る液晶の画面を見ていると、オレンジからグリーンにかけての光彩がうっすらと見えます。 体内に意識を向ければ、和牛がおさまった胃がそのぬくもりを抱えながらゆっくりとリラックスし、暖かい光のような意識の波が脊椎に沿うようにゆっくりと上がってきます。思わず背筋をすっと伸ばしたくなる。先ほど和牛が通った喉を息が通っていくのが心地よく、生命を感じます。 目を閉じると、やがて意識は額の骨の内側に集まり、ムズムズとした感覚とともに黄色い青の光を放って脳天に抜けていきますね。満たされた気持ちになります。あがなわれた気持ちとでも言いましょうか。この感覚は全ての宗教の根幹だと思います。 結論ですが、三田牛は宗教でした。
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「EM菌」に見るトンデモ観察の醍醐味

偏愛・脳汁を語るサイト「ヲトナ基地」では、多数の「愛しすぎておかしくなるほどの記事」をご紹介してまいります。 ヲトナ基地で今回紹介する記事は「『EM菌』に見るトンデモ観察の醍醐味」。黒猫ドラネコさんが書かれたこの記事では、疑似科学への偏愛と、そんな「トンデモ」を観察する醍醐味について語ってもらいました。 「トンデモ・ウォッチャー」を自認して数年が経ちます。ただのライターですが、ネット上で変なものを見つけては調べ、自分なりに噛み砕いてから皆さんに伝える趣味を持っています。 特に、どう考えても変なのに「これは素晴らしいものだ」として宣伝されまくっているものが大好物。その発案者・開発者や、一部の「信者化」した方々が不自然なほどに盛り上げようと画策しているものです。それは疑似科学やニセ医学などによく見られる反応で、私はそうしたものを信奉する人間の弱さや脆さに、ものすごく興味をそそられるのです。 EM菌への賛否 「EM菌」をご存知でしょうか。正式名称はEffective(有用な)Microorganisms(微生物たち)の略で「有用微生物群」だそうです。 frolicsomepl/Pixabay 1980年代から琉球大学の比嘉照夫名誉教授らによって研究がなされ、関連製品の一般販売が始まってからは今年でちょうど30年を迎えるとのこと。多くは液状でボトルなどに詰められ、堆肥を作るためや、臭い消しや、水質改善などに使われてきたようです。商品には飲料などもあり、過剰な自然派やオーガニック信仰が厚い方々などの間で親しまれつつ、世界各国にも進出。愛好家から「地球の善玉菌」なんて呼ばれるほどに絶賛されていました。 EM推進の議員連盟なども立ち上がるなどの勢いはありましたが、効果や効能についてはたびたび賛否両論が巻き起こり、実験の結果が出されたり、否定されたりを繰り返してきました。時折メディアで取り上げられたりすると賛同者が効果を誇り、批判者は「うわっ! 出たEM菌!」と反応するせめぎ合いがあったのです。(こういうのが、私にとって「これだよ、これ」となる垂涎のネタです) 現在のSNS上でのEM菌への反応は「なんか胡散臭い」が主流でしょう。そのきっかけとなったのは、東日本大震災で起こった福島の原発事故後に、EM支持者らにより「除染に使える」「結界を作る」「バリアになる」などと過度な言説が広がったことでした。 もともと微生物由来なわけですから、水質を変化させたり、生ごみから肥料が作れるという理屈ならまだ分かります。しかしEM推進派が、「放射能を消滅させる」みたいなことまで主張し始めたもんだから、多くの科学者や有識者の目に触れることになってしまい、ヤバさが明るみになった形です。 ついに2013年には、提唱者である比嘉氏が「EM菌は神様」とコラムで発信。人智を超えた効能などを謳ってしまいました。それまで知らなかった人も、さすがに触れてはいけないと思ったことでしょう。この香ばしい匂いばかりは消せません。 chriswanders/Pixabay 訴えられた批判者 その危うさに気付き、EM菌が「疑似科学、あるいはニセ科学」であることに警鐘を鳴らし続けてきた人たちがいます。驚くべきことにEM研究機構などの推進派は、この批判者や記事を掲載したメディアに対して次々に圧力を掛けました。真っ当な指摘や、異論を述べた人たちを恫喝するように訴訟を起こしてきたのです。 呼吸発電さん(ペンネーム)は、2017年に刑事告訴されたことにより書類送検されましたが、直接の捜査は行われず、嫌疑不十分で不起訴となりました。一連のEM推進派の所業などについては、2022年出版の『カルト・オカルト 忍びよるトンデモの正体』(あけび書房)に、「EM菌は科学か宗教か―万能を主張する『EM菌』の宗教的な側面とその変か」として寄稿しています。 故郷の福島でEMが推進されていたことを目の当たりにして注意喚起を開始した呼吸発電さんは、「宗教的な側面を持つニセ科学のEM菌が、日本の科学技術として、世界中に広がり定着するかも知れません。これからもEM菌に警鐘を鳴らし続ける必要があると思います」と、寄稿を結んでいます。今もなおSNS上やまとめサイトなどで、積極的に投稿を続けています。 https://twitter.com/breathingpower/status/1769879794555211999?s=20 そして忘れてはならないのは、元・法政大学教授の左巻健男氏の戦いです。前述『カルト・オカルト〜』の企画発案者。理科教育、科学コミュニケーションのスペシャリストとして多数の著書がある同氏は、教育現場や暮らしの中に入り込む「ニセ科学」などに言及し続けてきた第一人者でもあります。 左巻氏は2015年にEM推進機構の人物に名誉棄損で提訴され、地裁、高裁ともに勝訴(最高裁で棄却)。18年には、左巻氏のEM批判の発言があった市民向け講演の記事を載せた中日新聞も提訴されましたが、こちらも地裁で勝訴。EM側は科学的な裏付けがあるとして査読論文を盾にして控訴しましたが、高裁判決でも「現時点では科学的に実証されていない」などとし、中日が勝訴しました。さらに19年にも再び左巻氏自身がEM側から名誉毀損で提訴され、地裁で争われていましたが、昨年6月に棄却されました。 EMが批判者を訴え、ことごとく敗れたのです。司法が科学を判断するわけではありませんが、論文まで持ち出したにもかかわらず科学的根拠を認められなかったことが、現在のEMの低評価を決めるものとなり、規模縮小に繋がったといっても過言ではありません。毅然と立ち向かったお二人だけでなく、二人に連帯するように「ニセ科学」への厳しい声は増えていきました。 Hans Reniers/Unsplash ネット上での評判はもはや覆るものではありませんが、その活動自体が消え去ったわけではなく、つい最近も関係する特定非営利活動法人が能登半島地震被災地の支援として、臭気対策などに使えるらしい「EM活性液」なるものを希望者に無料提供することを発表していました。こうした活動を受け入れることは「被災地で使われた」との疑似科学の実績にされかねません。 全くの別件ですが最近、田んぼに特定外来種のジャンボタニシを撒いての稲作を称賛したものが炎上していましたね。「自然に優しい」との勝手な思い込みが、実害をもたらす例だと思います。 また、EMの本拠地である沖縄などを中心に「プールの浄化」などの名目で理科の授業に取り入れていたり、「EM団子」を作って田んぼに撒かせたりしていることを時折、肯定的な報道などでも目にします。 自分で選択できる大人とは違い、子どもたちは与えられる機会を正しさに基づくものと思ってしまいます。授業や行事の中では疑うことも難しいでしょう。親や教員がきちんとした科学リテラシーを持っていてもらいたいものです。 Tho-Ge/Pixabay トンデモ・ウォッチのすすめ そうは言っても、大人でも何かを「良いものだ」と信じてしまう心理は複雑。そして、何かを宣伝されたときに多くの場合、善意を感じることでしょう。時には科学が全てではない事情もあって、無償なら受け入れてしまうこともあると思います。 誰もが科学的な知見を有するわけではないし、善悪もその場で断定できるものばかりでもありません。ただそれでも、無関心にならずにたくさんの目で「疑似科学、ニセ科学」を観察する必要があります。疑似科学やニセ医学などとの戦いやせめぎ合いがあることを知ること、それは自分や周囲を守ることに繋がるのです。 社会全体で推奨されているものと、ごく一部だけで称賛されているものの見極めはそんなに難しくありません。ちょっと穿った見方で、「妙に持ち上げている人たちがいるけど、なんだか変じゃないか」。そうやって調べてみるからこそ浮かび上がるものがあります。 そうして、「これってやっぱりおかしかったんだ」と理解できることこそが、トンデモ観察の醍醐味と言えるでしょう。変なものにハマって盛り上がる人たちを観察することは、決して良い趣味とは言えませんが、「ああはなりたくないな」と立ち止まって観察する癖がつくと思います。 何より、変なもの自体への誤りを指摘する各分野の専門家とSNS上で繋がることは大きな喜びになるはずです。SNS上には「名もなきエキスパート」もたくさんいます。私自身もそういった人たちの発信に勇気付けられてきました。過度な信頼は疑似科学などへの信奉と表裏一体でもあるのですが、賛否両輪のどちらが優位で信頼できる情報かを判断し続けることでネットリテラシーを高めることになるでしょう。 何の研究者でもなく専門知識があるわけでもない私は、それを繰り返して活動してきました。皆さんもぜひ一緒に「トンデモ・ウォッチ」をしてみませんか。
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アイス業界の注目ワードは「春アイス」! アイス研究家が春アイスを愛でる

偏愛・脳汁を語るサイト「ヲトナ基地」では、多数の「愛しすぎておかしくなるほどの記事」をご紹介してまいります。 ヲトナ基地で今回紹介する記事は「アイス業界の注目ワードは『春アイス』! アイス研究家が春アイスを愛でる」。シズリーナ荒井さんが書かれたこの記事では、アイスクリームへの偏愛を語っていただきました! みなさん初めまして、アイス研究家のシズリーナ荒井です。私は、1歳1カ月から今日までにおよそ6万個以上ものアイスを食べては研究しています。アイスの新商品が店頭に並ぶ前日には脳汁が止まらず、新商品を誰よりも早く手に入れるまで眠れないこともあります。 そんなアイスファーストな日々を送っているからこそ気づいてしまうこともあります。今回は、そんなアイスの偏愛者だからこそ気づけたアイス業界のアレコレを綴らせていただきます。どうぞ最後までお付き合いください。 冬アイスの次は「春アイス」である理由とは 今まで、アイスの新商品が発売される主なシーズンは、夏と冬が通例でした。その中でも特に冬アイスは遊び心のあるユニークな新商品が市場に出回ります。一方、夏には確実に売れる新商品を生み出そうとアイスメーカー各社が鎬(しのぎ)を削っています。 それもそのはず、アイス業界の売上構成比は、春夏商品と秋冬商品では春夏商品の方が高くなっており、アイスメーカー各社の売上予算設定も高くなっています。そのため、売上を確実に上げるため夏に出される新商品は過去に売行きの良かったフレーバーや商品、冬に発売した新商品(1月〜2月)に売れ行きの良かった商品が継続して店頭に並びます。 2021〜2023年の間に5回もの原材料費高騰などによる値上げラッシュに伴い、創意工夫が求められる時代になったようで、今年のアイス業界は特に“春アイス”にも新商品の開発に注力しているようです。 それもそのはず、2024年1月には日本気象協会からの発表でもあったように、今年は例年より夏物アイテムの需要が高まる見通しであると予測されており、3月から発売される新作アイスが注目されています。 アイス研究家が注目する「春アイス」とは 【注目の春アイス その1】アイスの新常識「代替」アイスが続々と登場 日本では動物性ミルクを使用した商品が数多く点在しており、豆乳やアーモンドミルクなどの植物性ミルクを使用した冷菓カテゴリーの領域ではまだまだブルー・オーシャンです。 日本のスーパーマーケットやコンビニエンスストア(2017年度)では、動物性ミルクのアイスがアイス市場全体のうちおよそ90%が店頭のアイスストッカーに導入されていましたが、2023年度の動向から植物性ミルクの新商品が続々と登場している流れや健康市場の成長に鑑みると、10年後には動物性ミルク商品と植物性ミルク商品の販売シェアが同じぐらいになっているのではないかと予測します。 植物性ミルクでありながらも動物性ミルクのような味わいが楽しめる代替アイスは、およそ7年前から開発されていたのですが、ヘルシーだけど豆乳のえぐみが前面に出てしまい、風味の部分で課題を残す商品が多かった。 しかし、ここ最近は味わいへのこだわりが実を結んできたように思えます。そんな中、複数の植物由来原料を組み合わせて作られたプラントベースアイス『エクリプスコ(eclipseco)』が先月から、都内のファミリーマートにて先行販売されておりSNSの反応を見る限り好調のようです。 クラシエからは『フロムグリーン』シリーズ、ロッテからは『クーリッシュGreen』シリーズからは『ストロベリー』が新登場と、代替アイスの市場が熱くなっています。 ・​​一推し代替アイス! 『エクリプスコ(eclipseco)』(エクスリプス・フーズ・ジャパン) 「エクリプスコ」を口にして驚いたのは、植物性ミルクのアイスではあるが、食感がボソボソっとしていない点は感動を覚えます。また、植物性ミルクではありますが、独特なエグ味なども軽減されており、とても食べやすかったです。今後のフレーバー展開が気になるところ。日本では、アメリカでも人気の高い3フレーバーを展開されており、シナモンやジンジャーの香りが口に広がる「クッキーバター」、ショコラティエが作る濃厚なショコレートを混ぜ込んだ「チョコレート」、ジューシーなマンゴーとパッションフルーツを使用した「マンゴーパッション」がラインアップされています。 【注目の春アイス その2】昨年の夏のトレンドから定番の仲間りしたフレーバーとは 2023年の夏にトレンドになったフレーバーが「白桃」でした。この流れに乗り遅れたアイスメーカーが、2024年の春アイスに間に合わせる形となり続々と「白桃」のアイスが登場します。そもそも、アイス業界はスイーツのなかで一番保守的であり、トレンドの最後の砦だと私は考えます。実は、アイスクリーム類は、賞味期限を書かなくてもいい商品なんです。-18℃以下の保存環境であれば品質の変化がほとんどないので、消費者庁・食品表示基準の規定により、賞味期限の表示を省略することが認められています。 そのため理屈上は棚に延々と置いておくことが可能ですが、そうすると次の新しい商品を入れられないため、必ず売れる商品を作らないとならず、マーケティングはかなり慎重に行います。 2020年度は新型コロナウイルスの感染拡大という未曽有の事態に直面し、アイス業界もかつてない難しい環境の中でリサーチを行ってきました。そこで、目を付けたのが大手コーヒーチェーン店のフローズンドリンク商品のナインアップ。夏になると定期的に採用される夏のデザートが「白桃」であり、店舗によっては即完売になる情報もSNSで容易に入手できたのです。 桃をまるごと使った贅沢なスイーツや、フローズンドリンクのフェアが組まれるなど、需要も確実にあるフレーバーとして2020年アイスメーカーがこぞって白桃フレーバーを採用したのがきっかけとなり、昨年も白桃アイスが豊作でした。 ここに来て、なぜ、春アイスとして白桃フレーバーで勝負をかけたのでしょうか? 2023年は世界各国で平均気温記録が更新され、世界的に観測史上最も暑い1年になりました。その結果、アイスが定期的に売れ続け、2023年度のアイス業界の売上が過去最高を記録しており、2023年度(売上ベース)の身長率は110%と好調に推移しています。その分、今年度(2024年度)の売上目標が高くなり、確実に売れる新商品を出したと考えられます。その中で昨年白桃フレーバーを出していないアイスメーカーが白桃アイスで挑戦する運びとなっています。 ・一推し白桃アイス! 『ヨーロピアンシュガーコーン 白桃のジェラート』(クラシエ) 今までのヨーロピアンシュガーコーンとは異なり、38年目にしてヨーロピアンらしいジェラート仕立てのコーンアイスで白桃フレーバーが登場。口溶けがなめらかで国産の白桃果汁を22%使用することで白桃の芳醇な香りが楽しめ、サクサクコーンがアクセントとなって絶品です。春アイスらしい商品となっています。 【注目の春アイス その3】おうちでカフェ気分が楽しめるアイス アイス業界で人気のフレーバーは、バニラ・チョコ・ストロベリー・抹茶に次ぐ人気のフレーバーは「紅茶」です。その代表作となったのが2019年に発売された「明治 エッセルスーパーカップ 紅茶クッキー」(※現在終売)です。このアイスがきっかけとなり、紅茶フレーバーが多くのユーザーに刺さり、明治の後を追う形で紅茶フレーバーの開発に着手するアイスメーカーが増えました。紅茶のフレーバーといっても、単なる紅茶味のアイスではなく、紅茶の茶葉を厳選し、濃厚なミルクを合わせたミルクティーのフレーバーが春アイスとして登場します。 飲料メーカーキリンの午後の紅茶をイメージした「午後の紅茶フローズンティーラテ」(森永製菓)やチョコとアイスが同時にとろける「パルム ロイヤルミルクティー」(森永乳業)が先人を切って期間限定で発売します。 一推し紅茶アイス! 『パルム ロイヤルミルクティー』(森永乳業) 世界三大銘茶であり、芳醇な香りが特徴のウバ茶葉エキスを100%使用することで、コクがあり華やかで芳醇なロイヤルミルクティーアイスに仕上がっています。口溶けの良いホワイトチョコとの相性も抜群で、上質なアイスバーであるパルムブランドにふさわしい品質です。ぜひ、春風を感じるバーアイスをお試しください。 まとめ 普段スーパーやコンビニで何気なく目にするアイス。しかしその背景には、企業の弛まぬ努力と緻密な戦略があります。なぜこの時期に、このフレーバーのアイスが販売されているのか、この記事が考えるきっかけになれば幸いです。 これからも私が愛するアイスのことをよろしくお願いします!

「才女」はなぜ「悪女」になったのか~娘の夫を惑わせた妖婦・藤原薬子~

筆者は普段から歴史を偏愛し、書籍や資料から彼ら彼女らの人物像を想像するのが好きだ。 平安時代初期、二所朝廷──文字通り二つの朝廷が存在し、権力を巡る激しい政治的対立が起こった時期があった。あわや大規模な争乱にもなりかけたその事件の中心には、藤原薬子という女性がいた。 日本史に縁遠い方にとっては聞き覚えのない名前かもしれない。彼女は、現在放映中の大河ドラマ『光る君へ』に登場する権力者・藤原道長と同じ藤原一族の女性である。とはいえ、藤原道長が藤原北家出身であるのに対し、薬子は藤原式家の出身だ。藤原式家が没落し、藤原北家が発展するきっかけとなった事件が、薬子の変だったと言われている。 娘の夫・平城帝から寵愛を受けた藤原薬子 平城太上天皇が天皇として即位する前、安殿(あての)皇太子と呼ばれていた時代。皇太子の妃となる娘に伴って、薬子は宮中に上がった。あろうことか安殿皇太子は娘ではなく、母である薬子に夢中となり、二人は男女の関係となってしまう。 DESIGNECOLOGIST/Unsplash 安殿皇太子の父・桓武天皇は激怒して二人の仲を引き裂く。しかし桓武天皇が崩御して安殿皇太子が平城天皇に即位すると関係は元に戻り、薬子は天皇の寵愛を一身に受けるようになる。女官の最高位である尚侍(ないしのかみ)に昇格し、兄の仲成と共に政治へ介入するようにまでなった。 ところで安殿皇太子は、一説によると、現在で言うところの躁うつ病を患っていたらしい。感情の起伏が激しく、ノイローゼ気味で病弱だった。即位後は熱心に政治に取り組むも、病気のこともあってか、わずか四年で弟・神野親王に皇位を譲ってしまう。神野親王が即位して嵯峨天皇となり、平安京で新政を始める中、平城天皇は遷都前の平城京へと居を移す。 しかし。平城天皇は譲位したことを次第に後悔し始め、権力を取り戻そうと画策した。810年9月6日、ついに平城京への遷都命令を出し、権力の掌握を試みる。だが、嵯峨天皇側はこれに素早く反応し、9月10日には仲成を捕縛し薬子の官位剥奪を宣言。11日、平城天皇は薬子を伴って東国へ向かい、挙兵を試みるが、先手を打って嵯峨天皇が派遣した坂上田村麻呂が待ち伏せていたためこれを断念。同日、仲成が平安京にて射殺される。 12日、平城京に戻った平城太上天皇は剃髪し出家した。一方の薬子は毒を煽って自殺。これが薬子の変の経緯である。 qimono/Pixabay この事件の呼称が薬子の変なのは、藤原薬子が事件を引き起こした原因であったとされていたからだ。薬子は美貌と色香で年若い皇太子を誑かし、尚侍となってからは国政を壟断した。平城太上天皇を操って重祚(ちょうそ:退位した天皇が再度帝位に就くこと)を唆し、再び権力を手にしようとするが失敗して滅びた悪女。それが長い間通説とされてきたが、近年では違った見方が一般的となっている。 平城太上天皇は決して薬子・仲成の操り人形ではなかった。重祚や挙兵に際しても主体的に動いて帝位奪還を試みたのは平城太上天皇の意志であった。薬子は都合よく罪をなすりつける人間として使われただけだ、というのである。この見方は近年強まっており、日本史の教科書には、一連の事件を薬子の変ではなく平城太上天皇の変という呼称で載っている。 確かに薬子を事件の首謀者であるとする歴史書『日本後紀』は、勝者である嵯峨天皇によって編纂されたことを考えると、この説は一理ある。天皇家の威信を守るために平城太上天皇を庇い、薬子と仲成を悪者にしたと考えられるからだ。 真実がどうなのかはさておき、私は個人的にこの説には賛成したくない。 なぜならば、悪女の存在こそが、歴史を彩る華であると信じているから。 ただでさえ日本には悪女らしい悪女が少ないのだ。ここで藤原薬子まで悪女枠から外れてしまったら、日本史に咲くひと際美しい悪の華が失われてしまうではないか。 どうにも病弱でヒステリックな印象が強い平成太上天皇だが、わずか4年の在位期間中に政治と経済の立て直しを図っている。彼が主体性を持って一連の事件を起こしたと言う点はあながち間違いではないかもしれないが、薬子が積極的に加担しなかったとは言えまい。薬子自身も事件において中心的な役割を果たし、悪女らしく暗躍したのであろう。この考えに従って、薬子の最期を妄想してみると……。 稀代の妖婦、毒杯を煽りて死す 毒杯に添えた指先は震えていなかった。 それが己の豪胆さを示す証であるように思え、薬子は少し安堵した。死を前にして、恐れも動揺もなく、敵の手にもかからず。潔く毒を煽る私は、少なくとも死に様だけは美しいはずだ。 私の生涯は汚らわしく見苦しいものとして、後世に語り継がれるのであろうが……薬子は唇を歪めて自嘲の笑いをこぼした。 歴史は時の為政者によって、都合良く改竄されてしまうものだ。だから薬子は自らが権力をほしいままにできる立場となると、父の復権を図った。続日本紀において削除されていた父の暗殺事件に関する記述を復活させ、太政大臣の位を追贈するように平城帝―上皇様に働きかけた。尊敬する父の威信を取り戻すために。そして自らが桓武天皇の寵臣として権勢を誇った政治家、藤原種継の娘であることを、人々の間に印象付けるために。 これから向かう冥土で、父はどのように自分を迎えるだろうか。若き帝を誑かし、争乱まで起こそうとした娘の悪行に青ざめ、叱責するかもしれない。いや、案外、「失敗に終わったとはいえ、そなた、なかなかよくやったではないか。惜しかったな」などと苦笑混じりに呟いてくれそうな気もする。 jconejo/Pixabay 「薬子様……!」 侍女の声が、薬子の回想を破った。 「知らせが参りまして……主上のご意向により、上皇様はご出家されることになりました」 こうべを垂れて述べる侍女に、薬子はほっと息をついた。 「そうか、なら良い。これで思い残すことなく逝ける」 かつて父の暗殺事件の首謀者として捕縛された早良親王は、配流となった末に憤死した。数年前、自分と仲成で謀って陥れた伊予親王は、幽閉されて間もなく自死した。権力を巡る闘争においては、皇族と言えど容赦なく死に追いやられることが常である。上皇が仏門に入るだけで罪に問われぬのは、寛大な処置と言ってよい。 ──薬子。必ず後から参れよ。 別れ際の上皇の声が耳に蘇った。 東国の挙兵を阻まれて平城京に戻ると同時に、薬子と上皇は共に乗っていた車から降ろされて引き剥がされた。 離れる寸前、安殿は薬子の袖を掴んで後から参れと告げたのだった。縋るような目で見つめてくる上皇に、いつもと変わらぬ包み込むような微笑みを向けたのが最後となった。 「薬子様。思い留まっていただけませぬか。上皇様は薬子様をお待ちでいらっしゃいます」 「愚かなことを申すな。主上が私をお赦しになると思うか。万に一つ、赦しを得られたとして、仏門に入られた上皇様にお仕えできるはずがない」 俯いた侍女に、薬子は室から退出するように促した。 「上皇様の処遇が決まった今、私は私自身に決着をつけねばならぬ。すべて終わるまで、外で見張っておれ」 侍女を追い出すと、薬子は毒杯を取り上げた。 思い残すことなく逝けると言ったのは嘘だ。つかみ損ねた権力と栄華にはだいぶ、未練がある。願わくばこの平城京で帝位に返り咲く上皇を見たかった。そしてその隣で、政(まつりごと)に関わってみたかったと切に思う。 「上皇様。最後の約束を果たせずに逝くこと、お許しくださいませ」 長らく寵愛を賜った、十も年下の男に最期の言葉を残すと、薬子は一息に毒を煽った。 ※これは筆者の想像によるものです pedrofigueras/Pixabay 似て非なる傾国の美女・藤原薬子と楊貴妃 薬子と酷似した運命を辿った女性として、真っ先に思い浮かぶのが中国の楊貴妃である。薬子よりも数十年ほど前に亡くなった楊貴妃もまた、時の皇帝である玄宗の寵愛を一身に集めた。しまいには安史の乱を招いてその責を問われ、死を余儀なくされている。 だが、薬子が楊貴妃と決定的に違う点は、政治や権力を巡る陰謀において中心的役割を果たしたとみることができる点である。楊貴妃は寵愛のままに贅を尽くした生活に溺れたが、薬子はその寵愛を使って政治に介入するようになった。彼女の飽くことなき野心、権力への渇望が見え隠れするところがたまらなく好きだ。 もし、桓武天皇の右腕として活躍した父・藤原種継の政治的才能が、彼女にも受け継がれていたとしたら。もし、薬子の変が成功して平城太上天皇の重祚が実現していたら。政治家としての才能を存分に発揮する薬子の姿が史書に見られたかもしれない。 薬子の変における平城・薬子側の挙兵は、行き当たりばったりなものだったとよく言われている。 しかし、この通説にも近年では疑問が呈されている。平城太上天皇は在位中に観察使という地方行政監察の役職を作り、譲位前後に自分の派閥の貴族をこの役職に任命して勢力拡大を試みているのだ。また、仲成は平城太上天皇の譲位から変の勃発に至るまでに、北陸観察使、近江守、伊勢守といった役職を歴任している。嵯峨天皇は平城太上天皇の遷都命令に際して、いち早く伊勢・近江・美濃の三関に使いを遣わして守りを固めているが、これは平城太上天皇と仲成の勢力圏を壊すためだったとも考えられるだろう。 薬子が仲成・平城太上天皇と計画して、用意周到に勢力版図を広げていたとすると、薬子の策略家・政治家としての一面を垣間見ることができるのではないだろうか? 娘婿を籠絡した妖婦・藤原薬子もいいが、政治家として辣腕を振るった稀代の女宰相・藤原薬子こそ誕生してほしかったなぁ、としみじみ思う。 きっとそのとき、日本史に咲く悪の華はもっと毒々しく、美しかったに違いないから。 【主な参考文献】西本昌弘『薬子の変とその背景』国立歴史民俗博物館研究報告第134集(2007年刊行)久冨木原玲『薬子の変と平安文学:歴史意識をめぐって』愛知県立大学文学部論集 国文学科編56号(2008年刊行)

わたしが天才を見つけたとき。新海誠と奈須きのこがまだ若々しい「苗木」だった時代のことを語ろう。

偏愛・脳汁を語るサイト「ヲトナ基地」では、多数の「愛しすぎておかしくなるほどの記事」をご紹介してまいります。ヲトナ基地で今回紹介する記事は「わたしが天才を見つけたとき。新海誠と奈須きのこがまだ若々しい『苗木』だった時代のことを語ろう。」。海燕さんが書かれたこの記事では、アニメーションへの偏愛を語っていただきました! 「お前さんたちは大樹の苗木を見て、それが高くないと笑う愚を犯しているかもしれんのだぞ」。 田中芳樹著『銀河英雄伝説』において歴戦の名将アレクサンドル・ビュコックが、若くして功績を立てた後輩の〈魔術師〉ヤン・ウェンリーを軽く見る同僚たちに対して述べた警句である。 わたしは新しく出てきた特異な才能がその欠点を批判されているところを見ると、しばしばこの言葉を思い出す。 すでに堂々と育ち切った大樹を見ればだれもがその威容を認める。しかし、それが苗木のうちからいつか大樹に育つことを見抜くことは容易ではない。生え出たばかりの苗木を見てその低さを笑う愚は避けたいものだ。 とはいえ、ときにはわたしのような節穴から見ても露骨に将来性抜群に思える才能もあるもので、わたしも出てきたばかりの作家を一見して「いつか大物になるぞ」と直感し、舌なめずりして周囲に吹聴してまわることがある。 今回は、そういった異数の才能たちのなかでもわたしの想像を遥かに超えた大樹に育ったふたりの天才が、まだちいさな苗木に過ぎなかった頃のことを話したい。 新海誠と短編アニメーション『ほしのこえ』の感動 https://twitter.com/shinkaimakoto/status/588668619799678976?s=20 いまから20年以上前の2000年初頭、わたしはある二本の苗に出会い、その、未熟でありながら想像を絶する大器を示した作品に、まさに圧倒されたのだった。 その一本は名を新海誠、いま一本は奈須きのこという。 おそらくいま、この記事を読まれている方はかれらの名前をご存知のことだろう。 新海誠は『君の名は。』、『天気の子』、『すずめの戸締まり』と立て続けにスーパーヒットを生み出した日本を代表するアニメーション映画監督、奈須きのこは世界累計収益一兆円を超えたモンスターコンテンツ『Fate/Grand Order』を統括する辣腕シナリオライターである。 ふたりともまさに現代日本でも最高の創造的才能といっても過言ではない。人を魅了してやまない、百万にひとつのダイヤモンドの輝き。 だが、そのかれらにすら苗木の時代はあった。わたしが新海誠の名前を知ったのは、ある掲示板(当時はLINEもTwitterも存在せず、掲示板で情報交換していたのだ!)でかれの公式サイトに掲載された動画を教えられたときのことだった。 そのうちの一本は短編『彼女と彼女の猫』の一部で、もう一本はのちに一部のアニメファンの間で大きな話題となる『ほしのこえ』の予告編だったと記憶している。 https://www.youtube.com/watch?v=8-ANtYTLMIY&ab_channel=m22shinkai わたしはそれらの映像をひと目見て、あっというまに魅了された。 そのとき受けた衝撃を、どう形容したら良いだろう。 あるいは、現在の新海の洗練されたアニメーションに慣れた人たちの目には、これらの作品は未完成のものに見えるかもしれない。 じっさい、近年のかれの円熟した仕事と比べれば、『彼女と彼女の猫』にせよ、『ほしのこえ』にせよ、作画といい演出といい、粗削りな一面もあることは否めない。 しかし、そこには紛れもなく「異常に傑出した才能」の、「特異なほど個性的な作家性」の、その凄絶な片鱗が見て取れた。 いまのようにネットに膨大な動画があふれている時代のことではない。わたしはその合わせてもわずか数分の動画をくり返しくり返し夢中になって視聴し、そして、下北沢で単館上映された『ほしのこえ』を観に行った。 https://www.youtube.com/watch?v=ldRznIwZeBc&t=2s&ab_channel=cwfilms ぶっ飛んだ。 そこには、一般的な商業アニメーションとはまた異なる、まさに若くはつらつとした才能だけが生み出せる「ひとつの世界」が広がっていたのである。 たしかに作画の完成度は高くない。無理があるところは随所にある。だが、それでもいままでまったく見たことがないアニメーションにほかならなかった。 『ほしのこえ』の内容についてはすでにさまざまに語り尽くされているからあえてここでくり返すことはしない。わたしがいいたいのは、それが当時、見る者にどれほどの衝撃と感動をもたらしたのかということだ。 そこにはいまや世界をも魅了するに至った新海誠の映像的才能が、いかにもぎこちない形ではあったが、たしかに見て取れた。 その頃、大学生だったわたしは心のなかで感動を反芻しながら幾たびとなく思った。こいつはすごいぞ。 その後の新海の活躍についてもまたいまさら書く必要はないだろう。あのとき、わたしが見つけだした(と一方的に思い込んだ)才能は紛れもなく本物だった。 それからもかれは『秒速5センチメートル』、『言の葉の庭』など優れた作品を発表ししつづけ、そして『君の名は。』においてついに歴史的な大ヒットを飛ばして日本中に認知される。 一部のアニメファンのあいだでだけ知られていた苗木は堂々たる大樹へと育ったのだ。素晴らしい。じつに素晴らしい。 https://twitter.com/kiminona_movie/status/938581390500675584?s=20 奈須きのこと大長編伝奇ノベル『月姫』の衝撃 一方、わたしが奈須きのこの名に触れたのは、やはりネットで『月姫』という同人ゲームの話題を見たことがキッカケだった。 その情報によると、『月姫』には五つのルートがあり、総シナリオ枚数はじつに5000枚に達するという。 わたしはその伝奇的な世界観や、「直死の魔眼」、「反転衝動」といったセンスあふれる造語に惹かれた。 だが、何よりわたしを魅了したのは、のちに伝説的に語られることとなるその秀抜なキャッチコピーだった。 「私を殺した責任、とってもらうからね」 https://twitter.com/TM_TSUKIHIME/status/1430545508381208579?s=20 本編中、純白の吸血姫アルクェイド・ブリュンスタッドが口にするこのセリフは、強烈な引力でその頃のわたしを惹きつけたのである(正確には本編では「わたしを殺した責任、ちゃんと取ってもらうんだから」、だが『月姫』のカバー裏にはこのように書かれている)。 シンプルでありながら謎と矛盾に満ち、凄絶なサスペンスとファンタジーを感じさせるひと言――そこには、奈須きのこという尋常ではない才能の最初のひとかけらが、これ以上ないほど明確に確認できた。 そして、わたしは秋葉原のパソコンゲームショップまで赴いて『月姫』を入手し、夢中になってプレイした。 当時わずか2500円だったそのゲームの内容は、いまから見れば、その後の奈須きのこが書くもののように洗練されているとはいいがたいことだろう。 しかし、それでも、圧倒的に新鮮で、独創的で、何より面白かった。 森羅万象、この世のすべての物体に宿る〈死〉を視ることができる魔性の眼、自ら自身の吸血衝動を抑えつけることでしか生きていけない吸血鬼、反転衝動と呼ばれる呪われた属性を抱えた大富豪の一族、長い物語の最初と最後にしか出て来ないなぞめいた魔法使い。 いずれの設定も、いま考えてみても凄まじいまでにずば抜けたオリジナリティを示している。 それは他のだれとも似ていない奈須きのこの広大無辺なオリジナル・ワールド、その蠱惑的な一部であったのだ。 何より、遠野志貴、アルクェイド、シエル、遠野秋葉、翡翠、琥珀といったキャラクターたちはきわめて魅力的で、すぐにかれらのことを大好きになった。 わたしはその物語を読みふけり、ときに笑い、ときに涙し、すぐにラストシーンまでたどり着いた。傑作だ、と思った。歴史的な傑作がここにある! 奈須きのこを擁する同人サークルTYPE-MOONは、この『月姫』で一躍有名になり、その数年後、『Fate』シリーズの端緒『Fate/stay night』を発表して記録的なセールスを達成する。 さらに『Fate』は、のちに『魔法少女まどか☆マギカ』などで知られることとなる奈須きのこの盟友・虚淵玄によって『Fate/Zero』へと発展し、さらにそこから先もいくつものヒットを続けざまに出すことによって、ひとつの「宇宙」を形成するに至る。 https://twitter.com/fatezero_ne/status/370925787660038144?s=20 この苗木もまた、わたしの想像をはるかに絶する大樹へと成長したわけである。 『ほしのこえ』と『月姫』の共通点は、2000年代初頭のその頃に、あるひとつの稀有な才能を核にしてきわめて少数で制作されたプロダクトだったということである。 『ほしのこえ』は異例にも新海がほぼ独力で完成させ、声優まで自分で務めたという作品だし、『月姫』は奈須きのこがシナリオ全文を書き、親友の竹内崇が(噂によると仕事をサボりながら!)すべてのグラフィックを担当した同人ゲームであるに過ぎない。 アニメーションにせよ、ビデオゲームにせよ、本来は制作に膨大な人手を要するものであるはずだが、これらの作品は考えがたいほど少ない人数によって創られたわけだ。 その頃、一般層にも広まりはじめていたパソコンとインターネットの進歩がその快挙を可能にした。 かれらはその後、より巨大な予算と利益をともなう数々のビッグコンテンツを生み出すこととなるわけだが、それでもその原点はここである。 あの若かりし日、わたしはネットでこれらの比類ない天才と出会った。そしてその燦然たる輝きに導かれて、いまもネットをうろつきまわり、新しい才能を見つけだそうと試みているのである。 すべての苗木が大樹に育つわけじゃない ──と、ここで終わっても良いのだが、上に書いたようなことを愚かな老害の他愛もない自慢話と感じられた方のために、最後に、わたしがある人に『ほしのこえ』を初めて見たときについて話したときのことを記しておこう。 そのとき、わたしはかれに、おそらくはかなり自慢げに語ったのだ。 何を隠そうわたしはその当時から新海誠の才能を見抜いていてですね、『ほしのこえ』も最初の上映から観に行ったんですよ、ええ、そのわずかな慧眼の観客のひとりがわたしというわけです、ふふん。 ところが、その人物はあたりまえのように、ああそうですかと答えたのだった。そのとき、わたしはその会場で司会をしていましたよ。 ぎゃふん。 これだから、人に自慢話をするものじゃない。すべてはいまから10年以上前、わたしがまだ若かった頃の、何もかもセピア色の思い出となってしまったむかし話、わたし自身が何者でもない一本の苗木だった時代のエピソードだ。 もっとも、この冴えない苗木はそれからまったく育つようすを示すことなくいまに至っているのだけれど。