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今夜もどこかで涙の匂い『夜廻り猫』ファン必見!Twitter発の心温まるストーリー

森佳乃子
偏愛・脳汁を語るサイト「ヲトナ基地」では、多数の「愛しすぎておかしくなるほどの記事」をご紹介してまいります。 ヲトナ基地で今回紹介する記事は「今夜もどこかで涙の匂い『夜廻り猫』ファン必見!Twitter発の心温まるストーリー」。森佳乃子さんが書かれたこの記事では、『夜廻り猫』への偏愛を語っていただきました!

「普通に就職して、結婚して子供も産むんだと思ってました」。就職氷河期世代の人に話を聞いたことがあります。短大を卒業したものの、就職できなかった女性。就活中、いったいどれだけのエントリーシートを送っただろう。数十社を超えたころ、数えるのをやめてしまったといいます。

その後、パートやアルバイトで収入を得る生活。10年前に契約社員となったが収入は低いまま。実家から出ることもなく、今年50歳になる女性。「このまま、親の介護に突入して自分の人生は終わるのだろうか。私の人生はいったいなんだったのか」。そんな疑問が浮かんではそのたびに振り払う。

少子高齢化が叫ばれて久しくなります。そして「失われた30年」と「就職氷河期」。この時代に生まれた、というだけなのに、「普通」は手に入らなかった……。そんな人はたくさんいるのではないでしょうか。

「就職氷河期」と呼ばれる、企業が極端に採用を抑制したバブル経済崩壊後の1993年~2004年ごろに就職活動を行っていた人たち。「数少ない椅子を奪い合い、競争に勝った人たちは勝ち組。わたしは負け組」とインタビューに答えてくれた女性はちょっと自虐的に笑っていました。

「それでもわたし、わりと自分のこと好きなんです」

本心から言っているのか、自分を肯定し、鼓舞するために言っているのかはわからない。けれど、自分が生まれてきたこと、生きてきた時間を肯定したい。そんな、必死に生きている人たちに寄り添い、心に秘めている思いを語らせてくれる猫がいます。

「夜廻り猫 遠藤平蔵」

作者は深谷かほるさん。初めてX(当時はTwitter)でこの漫画を読んだ時に、深谷先生に会ってみたいと思いました。過去に投稿されていた『夜廻り猫』をすべて読み、発行されていた単行本を買いました。大阪で原画展とサイン会が開かれるとの告知をTwitterで読み、先生に会いに行ったことがあります。

マンガの中で先生はご自分のことを「おばあちゃん」のように描いていますが、本物の深谷先生はとても若々しくステキな方でした。先生にサインしていただいた2巻には「重郎」のイラストと「じゅーろ、ここにおるよ」のセリフを書いていただきました。わたしの大切な宝物です。

そんな『夜廻り猫』の魅力を語りたいと思います。読んでみてください。

『夜廻り猫』は、漫画家・深谷かほる氏が描く、心の涙の匂いをかぎつけて人々に寄り添う猫の物語です。頭にサバ缶を乗せたグレーの野良猫「遠藤平蔵」は、人の心に流れる涙のにおいをかぎ取ってやってきます。

本作は、読者の心に深く響くストーリーと魅力的なキャラクターで多くの支持を集め、単行本化、その後アニメも制作されました。本は国境を越え、韓国、台湾でも発売。本記事では、『夜廻り猫』の魅力や登場キャラクター、作者の思い、そして作品の社会的影響について詳しく解説します。

『夜廻り猫』とは

『夜廻り猫』第1話

『夜廻り猫』は、2015年10月から深谷かほる氏がTwitter上で発表を始めた漫画作品です。物語の中心となるのは、猫の遠藤平蔵。彼は、心で泣いている人々の涙の匂いを感じ取り、その元へと足を運びます。その際、彼の相棒である片目の子猫・重郎(じゅうろう)も共に行動します。

平さんと重郎が向かうのは傷つき、心折れそうになりながらも歯を食いしばり立ち上がって歩き出す人たちだけではありません。時には喜びの涙を流す人たちのところにも。平さんと重郎はどんな時も「喜ぶ人と喜び、泣く人たちと泣く」のです。

人だけでなく、カラスやタヌキ、他の猫たちにも平さんの注意は向けられます。時には戦い、傷つきますが、それでも平さんは重郎を懐に抱き、今日もどこかで流される涙のにおいを追いかけます。慰めるつもりが反対にもてなしを受けることもあります。

「人は一人で生きているのではない。持ちつ持たれつなのだ」。男性や女性、子供やお年寄りまで。日常生活での悩みや苦しみ、喜びや悲しみといった人々の感情を丁寧に描き、多くの読者の共感を得ています。

「もしおまいさん、泣いておるな」

『夜廻り猫』第一巻

深谷かほる氏は、1962年に福島県で生まれた漫画家です。代表作には『ハガネの女』や『エデンの東北』などがあります。2015年10月からTwitterで『夜廻り猫』の連載を開始し、その独特の世界観と温かみのあるストーリーで多くのファンを獲得しました。また、2017年には第21回手塚治虫文化賞短編賞を受賞し、その才能が広く認められています。

そんな深谷氏と暮らしてきた猫や、漫画にも登場する実家猫の「すばる」(保護猫。ダイエット中なのに常に食べ物を狙っている。基本東北弁でしゃべる)、深谷氏の友人で横浜に住む「しづさん」が世話をする野良ネコたちや、右の羽が折れた「ミギ」と左の羽が折れた「ヒダリ」と名付けられたカラスたちなど、たくさんの動物がモデルとなって登場します。

現在(2025年2月)『夜廻り猫』は11巻まで発行されており、WEB版は週に2回更新されています。たまに深谷先生の「今日は書けなかったからお休み!」なんて自虐マンガ(?)が投稿されていることもあり、肩ひじ張らないところもまた人気の秘密かもしれません。

マンガでは、世間の話題にはならず見過ごされているけれど、毎日を懸命に生きている(必死に生きざるを得ない人たち)の日常が取り上げられます。登場する人たちはみな、どこかで会ったことがあるような気がします。

いや、もしかしたら、これはわたしかも。そんな風に思えるほど、描かれるエピソードは身近なものです。

主要な登場キャラクター

『夜廻り猫』第59話

遠藤平蔵「一人泣く子はいねがあ」

物語の主人公である遠藤平蔵は、心の涙の匂いをかぎつける能力を持つ猫です。彼は、夜の街を歩きながら、悩みや悲しみを抱える人々の元へと足を運び、その心に寄り添います。その姿勢は、多くの読者に癒しと共感を与えています。

トレードマークは頭に乗せたサバの空き缶。コワモテの灰色猫。いつも半纏をまとい、懐には片眼のない子猫「重郎」を抱えています。

「子連れ狼」(昔人気だった時代劇)よろしく、いつも小さな重郎を守り、時には自分の食べるものを与えます。血のつながりはありませんが、親が子供を守りたいと思う、自然な愛情がそこにあります。

何もかも思い通りにいかない。良かれと思ってやったことがすべて裏目に出ている気がする。わたしのことなんか気にかけてくれている人なんかいない。

泣きたくても泣けないとき。一人で涙をこらえる夜。生きていれば誰しもそんな夜があるのではないでしょうか。

そんな時、平さんはやってきます。

「もし、そこなおまいさん。泣いておろう心で」

平さんもたまに間違うことがあります。悲しみの涙ではなく、うれしくて泣いているときも。そんな時も平さんは一緒に喜びを分かち合い、涙の主からふるまわれる食事を重郎とともに食べて帰っていくのです。

人生、いろいろあるよね。いろいろあるけど、悪いことばっかりじゃない。きっといい時もある。だから立ち上がって歩き出せ。平さんは力尽きそうになった人に、その声が届いていなくてもエールを送り続けます。

重郎「じゅーろ、ここにおるよ」

遠藤の相棒である片目の子猫・重郎。彼は、遠藤と共に行動し、人々の心の痛みに寄り添います。その無邪気さと純真さで、読者の心を捉えています。初登場は1巻、第68話。

『夜廻り猫』第68話

重郎は生まれて間もなく一人ぼっちでいたところをカラスに襲われました。長老猫は「死なせてやれ」と言いますが、平さんは長老の制止を振り切って重郎を救出します。たとえ、長く生きられなくても「今日ここにある命」。小さな命に対する保護は「生まれてきた祝いだ」と平さんはいい、自ら水路に飛び込み、ずぶぬれになりながら自分の毛を吸わせて子猫に水を与えます。

「生まれてきた日」おめでとう。自分が生まれてきた日に何の意味があるのだろう。そんな風に感じている人にとって平蔵の重郎に対するまなざしは優しく、心を暖めます。生まれてきた日、おめでとう。生きていることそのものが祝いだ。

「おまいさんは頑張っておる」。たとえすべてが揃っていなくても、あなたは「負けた」人じゃない。自信をもって生きていけ。

『夜廻り猫』第195話

宙さん「オレには平さんのような生き方はできない。だからいいのさ」

『夜廻り猫』第55話

「先生」の飼い猫。のんびりした飼い猫らしい気のいい猫。平蔵と重郎をいつも気にかけています。「先生」も宙さんが求めるままに平蔵と重郎を招き入れ、寒い日にはマタタビ茶、時にはブリを焼いてふるまってくれます。

過酷な野良猫暮らしの中でも時折訪れる宙さんとの楽しい時間。何を話したか忘れるぐらいです。一緒に暮らさないかと誘う宙さんですが、平蔵は断ります。自分にはなすべきことがある、と。宙さんはそんな平蔵を見送り、自分はいままでどおり、「先生」との暮らしを続けます。友達であり続けること。友達が困った時にはすぐ手を差し伸べられるようにある程度の余裕があること。

「オレには平さんのような生き方はできない。だからいいのさ」

持てるものは持たざる者に分け与える。宙さんのような存在も必要です。

ワカル「わかります~」

『夜廻り猫』第114話

「夜廻り猫見習い」。平蔵に憧れて夜廻りを始めたが失敗も多い。「わかります~」が口ぐせのお調子者。どんくさいが、いつの間にか人の懐に入って和ませているキャラクターです。料理が得意で、話を聞きながらいつの間にか訪問した人の冷蔵庫の中にあるものでおいしいものを作って一緒に食べる。

「誰かと食べること」だけで元気になれる人もいます。平さんとはまたひとあじ違った、おとぼけキャラで人気者に。別冊「居酒屋ワカル」が出版されました。

最近ではワカルも成長し、独立してしっかり夜廻り猫をしているようです。宇宙からやって来た仔猫の「トロ」とともにさっちゃんのお世話をしながら(お世話されている?)居候をしています。『夜廻り猫』では高齢の人たちが野良生活をしていた猫を引き取り、一緒に暮らしています。

一人暮らしの高齢者には譲渡できないと断られることもあるそうですが、独り暮らしの高齢者の見守りが社会でしっかりできれば、猫との暮らしは寂しさを癒す効果があるのではないでしょうか。

しづさん「大変と不幸は違うのよ」

『夜廻り猫』第192話

『夜廻り猫』には「いい人」がたくさん出てきます。宙さんの飼い主である「先生」やワカルの同居人「さっちゃん」。不愛想で人付き合いは苦手だったのに「きよし」と「ぼうし」の二匹の仔猫を引き取り、右往左往しながらも世話をする「きよし」さんなど。「世の中まだまだ捨てたもんじゃない」。平さんはそんなことも教えてくれているのかもしれません。

そんな人の一人が深谷先生の実在の友人「しづさん」です。野良猫やケガをしたカラスなど、弱いものを見捨てられず世話を続けます。しづさんの住むマンションの自転車置き場に、引っ越した住民が置き去りにした猫がいました。

人を信用しなくなった「ホコリ」をしづさんは根気よく世話します。ホコリは最終的にしづさんに引き取られ、2024年3月に24歳まで生きて亡くなりました。人間に捨てられて人間に不信感を持つようになった猫が、最後に人間を信頼して一生を終えられたことに、全猫飼い代表としてしづさんにお礼を言いたい。

右の翼が折れていた「ミギ」と左の翼が折れていた「ヒダリ」は2020年に姿を見せなくなりました。11巻949話で、おそらく寿命を迎えた二羽がしづさんにお別れを告げに来ます。その後はカラス天狗になるための修行に出たのではないかと重郎に平さんが説明するシーンがあります。

しづさんはアンティークドールの制作者でもあり、Xでホコリそっくりの人形を公開しています。17歳になる猫のピピと暮らしながら、いまも小さくて消えてしまいそうな命を気にかけていることでしょう。

『夜廻り猫』で語られる名言

『夜廻り猫』には名言も多く、「心で一人泣いている」人たちを慰めています。特に40話は、メッセージ性の強い作品です。平蔵が直接登場人物と関わるわけではなく、生きることに疲れた人たちに対するエールになっています。

「一度に上を見るな。ひと足ひと足歩け。いつの間にか半分登った。その調子だ!おまいさんは傷つき、病んだ。負う荷物は重く、闇夜無道をただ一人。夢は叶うかわからない。いつまでも傍にはいてやれない。幸福すらも祈るのみ。しかし大丈夫だ。進んだぞ!歩ける。おまいさんは最後まで歩けるぞ!」

『夜廻り猫』第40話

1巻の最後では、社会の片隅でひっそりと生きる人たちに対して平蔵が頭を下げています。

「(不登校の)あの子は、動かないが耐えるという仕事をしておる。(重い病気で闘病中の)あの子は何もできないように見えるが24時間闘っている。ああ、話したいんだ。あなたが私を励ましたことを」(太字は筆者)

『夜廻り猫』第一巻

「社会的に成功者とみなされる人たちだけが頑張ったわけじゃない。みんな頑張って生きている。そして、お互いに励まし、励まされて生きている」

「ありがとうに、ありがとう」

それが深谷先生が『夜廻り猫』に託したメッセージなのかもしれません。

『夜廻り猫』の社会的影響

『夜廻り猫』は、SNS上での連載開始から多くの反響を呼び、書籍化や展覧会の開催など、その影響は多岐にわたります。特に、読者からの共感の声や感想がSNS上で多数寄せられ、作品の持つメッセージが広く共有されています。また、深谷氏自身も猫への深い愛情を持ち、その思いが作品を通じて伝わってきます。

『夜廻り猫』は、人々の日常生活に潜む悩みや苦しみ、そして喜びや希望を描いています。遠藤平蔵が人々の元を訪れ、その話に耳を傾けるとき、読者は自身の経験や感情と重ね合わせ、深い共感を覚えます。この作品は、他者への思いやりや共感の大切さを伝えており、現代社会における人間関係の在り方を考えさせられます。

まとめ

『夜廻り猫』最新刊11巻

『夜廻り猫』は、深谷かほる氏の温かみのある筆致で描かれた、人々の心に寄り添う物語です。その深いテーマと魅力的なキャラクターたちは、多くの読者に感動と癒しを提供しています。まだ読んだことのない方は、猫が好きな人もそうでない人も、ぜひ一度手に取ってその世界観に触れてみてください。「平さん」を通して投げかけられる、「頑張っている人たち」に対する深谷先生からの優しいエールのとりこになるはずです。

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