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いまこそ読むべし! 伝説の名作SF『戦闘妖精・雪風』を熱く深く鋭く解説する

フミコフミオ
偏愛・脳汁を語るサイト「ヲトナ基地」では、多数の「愛しすぎておかしくなるほどの記事」をご紹介してまいります。 ヲトナ基地で今回紹介する記事は「いまこそ読むべし! 伝説の名作SF『戦闘妖精・雪風』を熱く深く鋭く解説する」。フミコフミオさんが書かれたこの記事では、「戦闘妖精・雪風」への偏愛を語っていただきました!

「戦闘妖精・雪風」にエンゲージ!するのは今がベストタイミング

僕自身は全国民必読と考えている、神林長平先生のSF超大作「戦闘妖精・雪風」の一般層への認知度がやや低いようで、日々悶々としている。たとえば、先日、営業先で冷淡な対応をされたあとに「まるで『戦闘妖精・雪風』雪風の零みたいな人だったね」と感想を述べたのだが、同僚にはまったく伝わらなかった。「『艦これ』ですか?」などと返されて「そうそう、艦これ、艦これ。幸運艦雪風」と軍艦マーチを口ずさみながら話を合わせてしまった。違う。僕は架空の航空機、特殊戦第三番機(のちに一番機)の「雪風」の話がしたかったのに……。このように、『戦闘妖精・雪風』を知らない人がいることに危機感を抱いて筆をとった次第である。正確にはキーを叩いたのである。フムン。

この文章は、『戦闘妖精・雪風』を知らない人、「食わず嫌いしている人、単純に知らない人」に、興味をもってもらうためのものだ。そして偶然にも、な、なんと今が雪風をはじめるベストの時期だったりする。最新作『インサイト 戦闘妖精・雪風』が今年の2月に刊行され、それにあわせて前作『アグレッサーズ 戦闘妖精・雪風』が1月に文庫化されているのだから。

神林長平先生は、ここ数年の刊行ペースを奇跡的に早めておられて、1984年『戦闘妖精・雪風』からはじまり1999年に『グッドラック 戦闘妖精・雪風』2009年『アンブロークンアロー 戦闘妖精・雪風』2022年『アグレッサーズ 戦闘妖精・雪風』と一連のシリーズ作が十数年スパンで発表されてきたのに、2025年『インサイト 戦闘妖精・雪風』は前作から3年で刊行。

良かった。『ガラスの仮面』と並んで完結するのか心配していたが、今の刊行ペースなら結末を見られるかもしれないという希望をもって、最新作を待機している僕なのである。それにしても、中学生だった1986年に「雪風」とファーストコンタクトした僕が、第二作『グッドラック 戦闘妖精・雪風』が刊行されたときは25歳になっていたからね。よく脱落しなかったものだ。自分を褒めてあげたい。繰り返しになるが2025年が「雪風」に触れるのに最適なタイミングなのである。

「雪風」とは何か?

『戦闘妖精・雪風』の内容については、僕よりも詳しい人が詳しい解説と分析をされているのでそちらを読んでいただきたい。ここで僕が申し上げたいのは『戦闘妖精・雪風』は、テーマは深く難解であるけれども、誰でも楽しめる作品であるということだ。深掘りすればいくらでも語れるけれども、ボンクラ学生だった僕でも「意味わかんないけど面白い。カッコいい」って軽い気持ちで楽しめるエンタメであることもまた事実なのである。

「今さら私のような新参者が入っていけるのかしら?」という人もおられるかもしれないがまったく問題ない。な、なんと!シリーズが始まって40年以上経っているが基本となる原作本は5冊しかない。『戦闘妖精・雪風《改》』『グッドラック 戦闘妖精・雪風』『アンブロークンアロー 戦闘妖精・雪風』『アグレッサーズ 戦闘妖精・雪風』『インサイト 戦闘妖精・雪風』のみ。40年で5冊。すぐに追いつける!原作が700冊以上ある「宇宙英雄ペリー・ローダン」シリーズと比べたらあっというまに通になれるのだ。いつやるの?今でしょう!

『戦闘妖精・雪風』のあらすじを初心者向けにサクっとまとめると、「30年くらい前に突然南極に「通路」が出来て宇宙のどこかにある「フェアリイ星」と繋がった。「通路」を通って未知の異星体「ジャム」が侵攻。地球側が応戦。戦線をフェアリイ星に押し戻すことに成功。人類はフェアリイ星に「FAF」という地球防衛軍みたいなものをつくってジャムと戦わせる。FAFのうち、主人公深井零が所属するのが「特殊戦」という戦略偵察機部隊で、零が搭乗するのがスーパーシルフ三号機「雪風」。特殊戦は戦場の情報を持ち帰るのが任務。そのため味方機がピンチにいても「見てるだけ~」である。

そのため特殊戦の戦士たちは高い空戦技術と過酷な任務に堪えうる精神をもった人間が選ばれている。ひとことでいうと冷酷で共感性の低い人間。また、雪風はスパコンや人工知能を搭載しており、自ら意志をもってジャムと対峙していく。ジャムは人間より雪風をはじめとした地球の人工知能を敵として認識しているらしく…人間とジャムと地球のコンピューターの三者の関係性が目まぐるしく変わっていく…」という内容である。シリーズが進むにつれ、人間対外敵という構図から逸脱して、人間とは?意識とは?というテーマを深めていく。うん。かなり序盤を割愛したけれども全然サクっとまとまっていないですね。反省。

つまり、異星人との戦争という単純なストーリーではないのだ。実際にストーリーが進んでいくとほぼ人間同士、あるいは人工知能との会話主体で構成されたエピソードも出てくる。空戦シーンもないエピソードもある。このちょっと難解な部分、じっくりと考えさせられる要素も『戦闘妖精・雪風』の魅力であるが、初見のハードルを上げているのも否めない。一方で、エヴァや最近の『機動戦士ガンダム ジークアクス』のように作品の考察自体がエンタメになっている作品もある。『戦闘妖精・雪風』もそのひとつだ。『戦闘妖精・雪風』はいろいろな読み方ができる作品。小難しいことを抜きにしてエンタメとしてもじゅうぶん成立している作品なのだ。

僕は『戦闘妖精・雪風』と出会って「痛い若者」になった。

僕が『戦闘妖精・雪風』と出会ったのは中学生のときだ。人間が戦闘機に乗って宇宙人と戦うSFとガンダム好きのボンクラ同級生から聞いていたので、戦闘以外の人工知能との関係性や、意識や自我とは何か的な展開に衝撃が走ったのだ。つか同級生は何を読んで「宇宙人相手のトップガン」という感想を述べたのだろうか。今でも不思議だ。

とにもかくにもそういう衝撃から僕は『戦闘妖精・雪風』の虜になったのである。ジャムという敵は正体不明。雪風のコンピューターも何を考えているのかわからない。主人公深井零は雪風に対して依存しているような畏れを抱いているような微妙な感じ。人間・コンピューター・ジャムの三つ巴の関係が、ハイテク戦闘機の戦闘シーンに集約されているのと、登場人物(人工知能含む)が繰り広げる意味深な会話が新鮮で面白かった。

『戦闘妖精・雪風』は、ボンクラ中学生の僕にとって正体不明なジャムのような存在だった。わからないけれど面白い。読んでいるだけで頭が良くなったようなインテリになったような気分になれた。錯覚である。そのうえメカと空戦の描写がカッコいい。しかし周囲の友人たちで『戦闘妖精・雪風』を読んでいる人は皆無だった。

 おかしい。僕が愛読しているSF雑誌やパソコン雑誌では、雪風マニアのような人が確かに存在している。たが、周辺には一人もいない。痛い中学生だった僕は、作中に登場する味方からも忌避されている特殊戦の戦士と自分の姿を重ねた。次第に、『戦闘妖精・雪風』を理解するにはある程度の知性、具体的には偏差値65以上が求められるのだなと痛い誤解をするようになった。孤独だった。

「雪風」の一篇「妖精の舞う空」の冒頭の一文、

『様様なものを愛し、ほとんどに裏切られ、多くを憎んだ。愛しの女にも去られ、彼は孤独だった。いまや心の支えはただそれのみ、物言わぬ、決して裏切ることのない精緻な機械、天翔る妖精、シルフィード、雪風。』と自分を重ねていたのだ。痛すぎる。

ひとりだけヘビーなSFファンの知人がいて、そいつは『戦闘妖精・雪風』を読み、自己流ジャム論を展開していた。だが、そいつとは雪風サイコーだよねーと連帯はしなかった。主人公・深井零が雪風と一対一の関係を築いたように、僕もそいつもそれぞれの雪風を持っていた。なによりも、そいつとつるむことによってモテない気がしたのだ。僕もそいつも孤独に雪風を愛していたのだ。余談だが、リアルに雪風ファンの女性と出会ったことがある。三十代になってからだ。雪風マニアといえる女性だったけれども、僕も彼女も互いに主人公深井零のように人格がちとアレだったために関係は長く続かなかった。残念です。

雪風は「エンタメ作品」として楽しめばいい。

SFの超大作、名作として取り扱われている『戦闘妖精・雪風』であるが、40年もの長きにわたって支持されてきたのは、「人間とは何か」という不偏的なテーマを取り扱っているからだ。そこにジャムや人工知能といった存在を通じて、意識や自我やコミュニケーションについても掘り下げられていく。この部分が雪風のよく語られている部分ではあると思う。

だが、しかし、あえて繰り返し申し上げたいのは、『戦闘妖精・雪風』は極上のエンタメであることだ。まず、楽しいのである。僕はボンクラだったので、最初は、小難しい部分をスルーして触れて、そこから少しずつ小難しい部分に入っていった。だから今でもファンでいられる。SFは読んでいるほうではあるが、SFマニアに比べたら知識も読書量も全然な僕が「雪風」のファンの端っこにいられるのは、エンタメという切り口から入っていったからに他ならない。エンタメとして読んでいるから五十歳を過ぎて脳の力が落ちてきても楽しめているのである。

大事なのは「なんだかよくわからないけど楽しい!かっこいい!大好き!」というドリカム的な精神で楽しむことである。僕が雪風ビギナーのときに実践した雪風読書を特別に伝授しよう。僕は文系人間でメカはちんぷんかんぷんである。心理学や哲学についても大学の一般教養の講義で居眠りしていたくらい。なので、その種の描写が出てきたとき真正面からどすこーいとぶつかると脳が疲れて「もうやめよ」とエラーを起こしてしまう。

コツがある。そういうときは英語がまったくわからなかった頃に戻って洋楽を聞くようにさらりと受け流すのである。意味を取ろうとしない。イメージを浮かべようとしない。外国人ヒップホッパーが訛りの強い英語でなんか言っていて意味わかんないけどカッコいいなーみたいに流すのである。

たとえばこんな描写だ。『戦闘妖精・雪風《改》』「騎士の価値を問うな」より『マスター・テストセレクタを機上チェックモードにセット。スロットル-OFF、武装マスターアーム‐SAFEを確認してから、セルフテスト・プログラムのスケジュールにしたがってプログラマブル電子機器類のテスト。飛行・航法用各種センサにテスト用疑似信号を入力しながら、エアインレット・コントロール・プログラマ、オートマチック・フライトコントロール・セット、セントラル・エアデータ・コンピュータ、スロットルコントロールのオートモードなどの機能をシミュレートチェックする』

あるいは

「スーパーフェニックス」より『コクピットにつき、プリフライトチェック。オール・コーションライト-クリア。マスターアーム‐チェック。オートコンバット・システム‐セット。A/G・AS-チェック。A/G・ASの各モード、自動、連続目標指示、高精度誘導、直接照準、手動、のセルフテスト』のような描写が出てきたら、洋楽ラップのように流せばいい。何言ってるかわかるようでわからないけどなんかかっこいい。それでいいのである。このノリに身を委ねられれば、気づいたときには『戦闘妖精・雪風』のディープな魅力の沼から抜けられなくなっているはずである。

「雪風」はどこから始めればいいのか問題。

最新刊『インサイト 戦闘妖精・雪風』を含めて単行本(文庫)は5冊刊行されている「雪風」。よくある質問としてどこから読み始めればいいのかという問題がある。答えはない。どこからでもいいと僕個人は思う。ただ、刊行順が時系列になっているので第一巻『戦闘要請・雪風《改》」から読み始めるのがわかりやすいし、収録されているエピソードが短くてシンプルかつ空戦が多いのでエンタメ度も高いといえる。あっ『アンブロークンアロー 戦闘妖精・雪風』から取り掛かるのはやめたほうがいいかも(とっつきにくいから)。

小説が苦手な人は、20年ほど前に発表されたOVAがあるのでそちらから始めるのがいいかも。古い作品だが完成度が高い。なお、主人公の声が半沢直樹である。最後に現在刊行されているシリーズを紹介してこの文章の〆とさせていただく。

①『戦闘妖精・雪風《改》」』一作。エピソードがシンプルかつ登場人物も少ないうえ、空戦シーンも多くエンタメしている。

②『グッドラック 戦闘妖精・雪風』第二作。前半は主人公のリハビリの話が続く。最後のエピソードの盛り上がりはシリーズ屈指。

③『アンブロークンアロー 戦闘妖精・雪風』第三作。前作の直後からはじまる魔訶不思議なエピソードが収録された異端の一作。ここから始めるのだけはやめたほうがいい。

④『アグレッサーズ 戦闘妖精・雪風』第四作。新キャラクターと新展開。ファンサも充実したエンタメを志向した一作。めっちゃ盛り上がる展開。ここから読み始めて、①②③に進むのもありかもしれない。なお、「アグレッサーズ」からが新三部作になるらしい(知らなかったが文庫の帯カバーにそうあった)。

⑤『インサイト 戦闘妖精・雪風』 未読(連載を読んでいない単行本全裸待機派なので)

以上である。『妖精を見るには 妖精の目がいる』とは作中の一文だが、皆さんにも雪風という妖精の姿を見てもらいたい。あと、神林先生の猫まみれ日記のインスタグラムもお茶目なので見てくださいね。エンゲージ!

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