TOP > NEW > ゲーム > だれだよ、美少女ゲームは現実逃避だっていったやつ。ぼくの現実はこんなつらくないよ!
ゲーム

だれだよ、美少女ゲームは現実逃避だっていったやつ。ぼくの現実はこんなつらくないよ!

海燕
偏愛・脳汁を語るサイト「ヲトナ基地」では、多数の「愛しすぎておかしくなるほどの記事」をご紹介してまいります。 ヲトナ基地で今回紹介する記事は「だれだよ、美少女ゲームは現実逃避だっていったやつ。ぼくの現実はこんなつらくないよ!」。海燕さんが書かれたこの記事では、美少女ゲーム『WHITE ALBUM2』への偏愛を語っていただきました!

 当時、私には一日一日が晩年であった。

 恋をしたのだ。そんなことは、全くはじめてであった。 

 太宰治「ダス・ゲマイネ」

ども。二次元美少女はお好きですか? ぼくは好きです。

ぼくのような腐れオタクはみな一様に架空の美少女たちの一挙一動に癒やされます。テレビやモニターのなかで少女たちがちょっとほほ笑むだけでもう天にも昇り、何ならこの残酷な世界を創った神をも赦してやろうかという気分になる。

それはどれほど非難されようと変えられない、オタクとして生まれた者の習性なのです。……え? バカ? 神さまもおまえにだけは赦されたくないと思っている? うるさいな、ほっといてくれよ。

いやまあ、たしかにその手のアニメを見ながら「て、てえてえ! ななな、なんていい子なんや(涙)!」と天を仰いだりしている姿はちょっとだれにも見せられないけれど、でもしかたないんだ、これは生まれながらにして背負った「宿命」なんだ。

デンマークの王子ハムレットが復讐に生きざるを得なかったように! しあわせに生きていた人魚姫が切ない恋に一命を散らしたように! オタクはどうしようもなく美少女に惹かれ、その下僕となって一匹の萌え豚へと堕ちるさだめなのだ。笑いたければ笑え、これがぼくたちの「幸せ」なんだから。ぶひぶひ。

しかし、一方で、世の中にはそのような心優しいオタクたちのばかみたいに繊細なココロを折って折って折りまくる恐ろしい作品も存在します。

それはたとえばあたりまえの美少女ゲームの山に紛れてオタクたちを誘惑し、阿鼻叫喚の地獄へひきずり込むわけです。今回はそのような「鬱ゲー」のなかでもとびきり破壊力を誇る一作をご紹介しましょう。

そのタイトルは『WHITE ALBUM2』(プレイステーション3版)。いやあ、これがねえ、ほんとにとんでもない話なんだ。もう、遊んでいて苦しいこと苦しいこと。

だれだよ、美少女ゲームは現実逃避だっていったやつ。ぼくの現実はこんなつらくないよ! いやあ、ほんとのほんとに大変なシロモノなんです、これが。

三角関係ものはありふれてはいるが――

『WHITE ALBUM2』。この作品は、そのタイトルからもわかるとおり、往年の名作『WHITE ALBUM』の続編です。

もっとも、内容的には完全に独立しているので、前作を知らなくてもまったく問題なくプレイできます。たぶん『ドラクエ』と『ドラクエ2』のほうがまだ関係しているといえるでしょう。

どうやら同じ世界を舞台にしてはいるらしいのですが、共通項は男女の「三角関係」を描いているという一点です。

三角関係。

はい、もうこの時点で不穏なものが感じられますね。そう、このゲームはひとりの主人公とふたりの少女たちの恋のかたちを追いかけている物語なのです。

何、普通? それくらいどうってことないって? はん(見下した笑い)。たしかに、男女三人の恋のトライアングルを描く作品は昔からたくさんあります。いわゆるラブコメマンガの黎明期においてすでにそういう作品は描かれていました。

まあ、ごく常識的に考えて、ただ主人公とヒロインのふたりだけにフォーカスしつづけていたら物語が盛り上がらないので、もうひとりヒロインを出して揺れる心理を描こうとすることは当然の作劇といえることでしょう。

そういった物語では必然、いずれかのヒロインは恋に破れることになるわけですが、いまどき、そのくらいの展開でとくべつ悲嘆に暮れる人も少ないに違いありません。

いや、一部のオタクはキラキラした目をして「純愛」を信奉したりするケナゲな生き物なので、その少数派に属する人も少なくないかもしれません。しかし、そうはいってもいまさら三角関係くらいで悶えてはいられないこともたしか。

ましてぼくのような世界のすべてを斜めに見る白けきった皮肉屋にとって、「主人公はどっちと結ばれるのか?」といった問いはさほど魅力的には思えません 。そう、ふつうだったら。ところが、このゲームはそうじゃない。

物語は、まず、主人公である北原春希たちの高校生時代から始まります。かれは高校時代に思い出を残そうとちょっとしたロックバンドを組んでいたのですが、そのバンドはあっさり崩壊してしまうのです。

このままでは何もできず高校生活が終わってしまうという危機のなかで、春希は運命的にふたりの少女と出逢います。優れたヴォーカリストである小木曽雪菜と、問題児ながら天才ピアニストである冬馬かずさ

かれはふたりをバンドに誘い込み、学園祭をめざしていっしょに練習を始めます。そして、かれらは激しく衝突しながらもなんとかステージを成功させ、物語はハッピーエンドに終わるのです。めでたしめでたし。良かったね。

ぶひ? いや、もちろん、そんな簡単に終わるはずはありません。なんと、このとき、雪奈は春希に告白し、ふたりは付き合うことになるのです。彼女は春希とかずさが惹かれ合っていることに気づいていたのに!

そして、色々あったあげく、春希とかずさは結ばれるものの、雪奈のことをも思うかずさは身を引き、海外へ留学してしまうのでした。うわあ! もうこの時点でつらいよ!

このやるせないしんどさを伝えられないぼくの文章力不足が恨めしい。三人が三人とも自分以外のふたりのことを思いやりながら、どんどん追い詰められていく過剰なまでにシリアスな展開はプレイヤーのガラスの精神をも粉々に砕きかねない迫力を備えているのです。

つらっ。本気でつらっ。しかし、ここまではまだほんの序の口に過ぎないのでした……。ひいっ。

ふたりの上に時は粉雪のように降り積もる

じつはここまでは全篇のプロローグにあたる『introductory chapter』です。そして、物語はここから数年後に飛び、大学に通う春希と、そのあいだにいっそうかれを強く想うようになりながらも、いまだにかずさへの遠慮も消せずにいる雪奈を追いかけていきます。

題して『closing chapter』。この章では、かずさがいなくなってしまい、残されたふたりの関係がきわだって繊細に描かれます。ところが、また、ここに他の女の子たちが絡んでくる。

いやもう、ふたりもの可愛い女の子に熱愛されているんだからそれで済ませておけば良いものを、さらに新しい女性たちと関係を結んでしまうんですね。

うん、それただの浮気男じゃね、と思われるかもしれませんが、違うんだよ、いや、そうだけれど違うんだよ。ただの浮気とかじゃないんだよ。雪奈のことを真剣に想っているからこそ、かえって彼女といることが苦しくなっていく微妙な男ゴコロなんだよ。

ここら辺、描き方によってはほんとにただのろくでもない男にしか見えなくなってしまうところだと思うのだけれど、この作品はじっくりと丹念に春希の心理を追いかけることでかれの揺らぐ恋に説得力を持たせています。

そもそも、もともと春希はかずさに惹かれていて、そのままであれば彼女と結ばれたはずなんですよ。そこに雪奈が割って入ったからこそきわめてややこしい状況になってしまったわけで、春希と雪奈のあいだにはほんの少し、しかし致命的な溝がこのときもなお、あるのです。

雪奈のことは好きだし、愛している。でも、かずさのことも忘れられない。春希の心が複雑に屈折していることは理解できます。

あるいは、ずっとかずさがいれば、かれはそのまま彼女を選んでいたかもしれない。だけれど、実際にはかずさはいない。だからこそ、その心は揺らぐ。納得できる展開です。

しかし、三人のサブヒロインたちとのエピソードを経て、春希と雪奈は結局その関係を強固にします。

そう、ようやく時がふたりの関係を健全なものにしてくれたわけです。あたかも空から舞い降り、舞い散る雪片のように、時はふたりの上に積み重なり、そしてその絆を深いものにした。かずさの幻影をも振り払うほどに。

こんどこそめでたしめでたし。良かった良かった。重苦しい展開に耐えた甲斐があった。やっぱりこの手の物語はハッピーエンドじゃないとね! いやあ、かずさには悪いけれど、ふたりには幸せになってほしいよ、ほんと。

ぼくはどちらかというとかずさのほうが好きなんだけれど、これ以上、シナリオの重さに耐えられない。ここで終わってくれて良かった(満足の吐息)。

――ところが。物語は、ここからさらに急展開します。運命の悪戯かシナリオライターの悪意か。ある日、春希は、かずさと偶然の再会を遂げるのです。ぎゃあっ。

恋の地獄に落ちて

じつをいうと、『WHITE ALBUM2』はここからが本番です。ここまでの二章はあえていうならこの先の展開の前振りに過ぎません。いままでも十分に痛い物語が展開していたわけですが、この先の章「coda」はそれどころではない。

それはもう、激辛料理をのどに詰まらせたような、絶叫さえできないつらさが続いていきます。あいたたたたた。痛い! 痛すぎる!

そう、春希はたしかに雪奈とのあいだに固い絆を作り上げたはずでした。かずさのことでさえ、過去にすることができた、そのはずでした。それなのに、実際にかずさと逢ったとき、そのすべてがあっさりと逆転されてしまうんですね

そのくらい、春希とかずさ、似たものどうしのふたりはほんとうに運命的に惹かれ合っているのです。ここから先のドラマについてあえて詳細に語ることはしませんが、いやもう、ぼくはやっていて苦しかったのなんの。

これ、美少女ゲームでしょ。もっとプレイヤーに優しく都合のいい展開にならないのか、ハーレムでうきうきとかそういうしょうもない内容でなぜ満足できないのかと、シナリオライターを問い詰めたくなるくらい。

とはいえ、いったんプレイし始めてしまったら続きを見たくてたまらなくなることも事実。もっと読ませろ、と血に飢えた吸血鬼のようにさらなる苦痛を渇望しつづける羽目になります。いやはや。

最高の幸福と最悪の地獄をあたかもジェットコースターに乗っているように乱高下しつづけるどろどろのラブストーリーは、ちょっと他では味わった記憶がありません。傑作としかいいようがない。つらいんだけれど。つらいんだけれどね!

ちなみに、この悪夢のような物語を生み出した悪魔のようなシナリオライターは丸戸史明という人物です。非常に優れた恋愛ものの描き手で、他にもいくつも代表作があります。

最近は美少女ゲームやラブコメライトノベルにこれといったヒット作を見かけなくなっている気がするので、あるいはかれの作風は流行とは少しズレているのかもしれないけれど、ぼくはとにかく大好きですね。

さらにいうと、丸戸さんには富士見ファンタジア文庫から出てアニメ化され劇場映画まで作られるほどの人気となった『冴えない彼女の育てかた』という作品もあります。

これは三角関係に留まらない多角形ラブコメなのですが、あくまでライトノベルということもあって『WHITE ALBUM2』と比べるとかなりマイルドな味つけになっています。

だからさほど苦しくはないんだけれど、さながら甘美なる劇毒のような『WHITE ALBUM2』を味わってしまった後だと少々物足りなくないこともない。

まあ、良いんですけれどね。本来、ライトノベルとか美少女ゲームって苦悩に身悶えしながら体験するものではないはずですから。どう考えても異常なのは『WHITE ALBUM2』のほう。

ものすごい名作だと思うけれど、こんなのばかり続けて読ませられたらぼくは死ぬ。脳か心臓かどちらかが耐えられない。

いや、このゲームはほんとにつらい。ぼくはもともと恋愛ものが大好きなヒトで、純愛小説やら不倫映画やら、いままでそれはそれはいろいろな作品を見てきましたが、そのなかでもいちばんつらいです。

しかし、どんなに苦しくてもどうしても続きを読むことをやめられないのですね。

物語は泥沼の深刻さを増しながら、さらなる地獄の底へ墜ちていきます。かずさの登場によって、春希が長い時間をかけて築き上げてきたあらゆる人間関係は破綻し、かれは何もかも失う瀬戸際までいくのです。

そして、それでもなお、かずさに惹かれる気持ちを抑えることはできない。もう三角関係というかこれ、魔のバミューダ・トライアングルか何かじゃね? という感じですが、うん、まあ、ほんとやめられない止まらない。

ぜひ、皆さんもPS3やPSVitaでプレイしてみてください。本気で切なくなるから。運命の恋なんてするものじゃないよね。やっぱり非モテがいちばん! ねえ、そう思いませんか? えっ、思わない? そうですか。そうですよね。

ゲームやろっと。

関連するキーワード

\ よかったらこの記事をシェアしよう! /

RECOMMEND

[ おすすめ記事 ]