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旅立つ友人のために最後にパチンコ大会を開催したはなし

pato
偏愛・脳汁を語るサイト「ヲトナ基地」では、多数の「愛しすぎておかしくなるほどの記事」をご紹介してまいります。 ヲトナ基地で今回紹介する記事は「旅立つ友人のために最後にパチンコ大会を開催したはなし」。patoさんが書かれたこの記事では、最後にみんなでパチンコを楽しみたい、旅立つ友人への偏愛を語っていただきました!

匂いと記憶は密接に結びついているという話をご存知だろうか。

視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚、人間の五感において、嗅覚だけが記憶を司る海馬に直接的に働きかけると言われている。だから、懐かしい匂いと共に古の記憶が蘇ったり、あの人がつけていた香水を感じて胸が締め付けられたりする。匂いと記憶が密接に結びつく脳の仕組みによってそれらが起こりやすいわけだ。

「いつまでも俺のことを覚えておいてくれや」

ちょっと古い豚骨ラーメンみたいな匂いをさせながら源さんはそう言った。僕はそれを、とある匂いと共に強烈に思い出すことがある。

僕の知人の源さんは「連日のように余命が尽きる」というよく分からない設定を持っている人だった。

「俺は明日で寿命が尽きるんだけど」

「明日、死ぬとしたら何をしたい?」

冗談めかして口癖のようにそう言ってのける源さんに仲間たちは「なに言ってんだ」と笑っていた。なにせ毎日のにことだからだ。はやい話、誰も真剣に取り合っていなかったのだ。

「源さんはなにをするんですか?」

源さんの戯言を真剣に聞くのはいつも僕だけだった。あるとき、聞くだけでなくて逆質問をしてみた。そして源さんは少し照れくさそうに笑いながら答えた。

「俺はさ、パソコンの設定をしたい」

その答えは予想外のものだった。

源さんらしく、高級な温泉旅館に泊まりたいだとか、死ぬほどギャンブルに溺れたいだとか、孫と遊びたいだとか、体調の悪化により制限されるようになったお酒を浴びるように飲みたいだとか、そういった“らしい”返答が返ってくるものと思っていたのだ。

明日にも余命が尽きるその時に、パソコンの設定をしたいというのもよく分からないし、まったくもってアナログ的で電脳とは縁のなさそうな源さんからそういう言葉が出てくること自体が大きな違和感だった。

源さんは孫の画像をやり取りするためにテレビ通販でパソコンを購入した。とはいってもバリバリに使いこなしているわけではなく、SNSに繋いで画像を受信するくらいしか使っていなかったので、そのパソコンはほぼ新品みたいな輝きを放っていた。

「これ、なんか使っているとこういう表示が出るんだよな」

源さんが持参してきたそのパソコンを開くと、あまり使ってはいないのだろう、新品の匂いがした。

そこには「この処理を終わらせましょう」というダイアログが表示されていた。そこには「今すぐ再起動」「時刻を選択」だとかボタンが並んでいるのだけど、そのいちばん右に「明日通知する」というボタンがある。源さんはそれを押したいというのだ。

これを押すと、文字通り、次の日に同じ通知が表示される。

「明日、余命が尽きるというのにパソコンの再起動を明日に持ち越す、それが粋ってやつよ」

それが粋なのかは分からないけれど、たぶんセキュリティ的には問題ありだ。ただ、粋だと言い放ちながら大笑いしていた源さんの顔を今でも思い出す。

「粋ということは印象に残る。あいつはあす死ぬのに更新を持ち越しやがった。そうして俺のことを覚えておいてほしい」

そのトーンはいつもの冗談めかしたものと違うように感じた。源さんの笑顔と「あす再通知する」というボタン、そしてパソコンから放たれる新品の匂い。僕の脳内ではこれらが強烈に結びついていた。

「俺のこと覚えておいてくれよ」

源さんはそう言ってまた笑った。

それは平日の夕方だったと思う。突如として僕のスマホに連絡が届いた。

「patoさん、こんどパチンコ大会をやるんで取材に来ませんか?」

古いくからの知り合いからのメッセージ。かなりご無沙汰といったタイミングできたこのメッセージの真意も分からなかったし、パチンコ大会!? 取材!? と困惑してしまった。

「いやあ、ちょっとスケジュール的に厳しいかな……」

聞くと、そのパチンコ大会は、メッセージ主の居住地である静岡市で開催されるらしい。静岡はちょっと遠い。東京から考えても遠いけど、その前日には別件の取材で熊本にいる予定だった。さらに遠い。交通費と宿泊費を考えるとかなりのものになってしまう。

「それにパチンコ大会ってどういうこと? むかしテレビチャンピオンとかでやってたようなやつ?」

だいたい、パチンコ大会ってのがよくわからない。もうすでにこの段階でどう断ろうか考えているところだった。

「実は、わたしの友人が癌で余命宣告を受けてしまって、もう残された時間を色々と楽しもうってなってるんですね」

予想以上にけっこうシリアスな展開が待っていた。重い。

メッセージ主の友人が癌で余命宣告を受けた。ずっと仕事ばかりをやってきた人だったので、残された時間を好きなことに使おうと決めた。その中の一つに、「仲間でワイワイと楽しみながらパチンコを打ちたい」というものがあり、じゃあ皆で叶えよう、と開催する運びになったそうだ。

「なるほど、じゃあ仲間たち数人でワイワイ打つ感じですか? 3人くらいでノリうち的な」

「けっこういますね、20人くらい。それくらいでワイワイ打ちたいです」

なかなかビッグな大会じゃねえか。

「あー、それはちょっとあれかもしれないですね。普通にパチンコ屋でやるんですよね。仲間20人で台を占拠すると、ちょっと迷惑になってこのご時世、怒られちゃったりするんじゃないですか。軍団が占拠しやがってとか、そういうのにセンシティブなご時世ですよ」

まあ、普通に心配になるだろう、と言いいう点を指摘しておいた。

「その点は大丈夫ですね。お客のいない機種を選びますし、もう店の許可も取りました。取材許可も取りました。当日は遅れて入店し、一般のお客さんに邪魔になりそうにない機種を選びます」

開催許可だけでなく取材許可までとってんのか。そこまでやっているとは恐れ入りました。

「どうしてもその友人の願いを叶えてあげたいんです。そしてその記録を残したいです。だから日本一のライターであるpatoさんにお願いしました」

「おいおい、日本一のライターは言いすぎだろー(悪い気はしない)。取材させてもらいます。ぜひとも取材させてください」

ということで、熊本から新幹線に飛び乗って九州新幹線、山陽新幹線、東海道新幹線を経由して、静岡の地に降り立ちました。

ちなみに前日にJR静岡駅に降り立ち、とりあえず静岡と言えば「サウナしきじ」だろとタクシーに飛び乗ったのですが、そこでひと悶着ありました。

「お客さん、静岡は初めてかい?」

「いやー、初めてではないんですけど、静岡駅周辺は久々ですね。なんか静岡駅周辺、寂しくなっちゃいましたね」

ちょっと軽い感じで、なんか駅周辺が寂しくなったと切り出したんですよ。そういう会話ってだいたいどこの地方でも展開されるじゃないですか。取り立てて静岡駅周辺がそうではないんですけど、日本全国どこでも地方は寂しくなりつつありますから、会話のとっかかりとしてかなり有効なんですよ。けれどもね、ここで事件が起こったんです。

「は? それはこっち側が寂しい方の出口だからだが?」

「人が少ないっていう意味なら間違ってる。昨日、大きな祭りがあったからその反動で人が少ないだけ。普段は賑やか」

「店だってたくさん営業しとる。ほら、そこの居酒屋だって賑わってる」

「そもそも、寂しくなったっていつと比べてのことなのよ。え? お?」

運転手さんにゴン責めされてしまい、サウナしきじに到着する頃にはすっかり泣かされていて「すいません、よく考えたら駅周辺、寂しくなってないです」と言わされるまでになってました。ホント、いまだにななんであれだけ責められのかがわからない。

さて、サウナのあとはまた別のタクシーを呼んで、決して寂しくない静岡駅周辺に舞い戻り、ビジネスホテルに入って眠りにつきました。

次の日の早朝。メッセージ主さんが迎えに来てくれて、そのまま大会が開催されるパチンコ店へと向かいました(編集部注:マルハン以外の店舗です)。

到着すると、まだ開店前らしく抽選を待つ人々がけっこういました。スマスロの新台が入ったばかりのようで、けっこうそれを狙うお客さんが多かったように思います。

お店には今回のパチンコ大会のメンバーが既に集結していて20人のメンバーが待ち構えていました。普段からパチンコやスロットが大好きな仲間たちのようです。

まあ、非常に正直に率直な意見を言わせてもらうと、まあまあガラの悪い人々で、僕なんかブルっちゃいましてね、本当は「今回の大会にへの意気込みを」とか開店までにインタビューしたかったのですが、まあ、もういちど書いておくとブルっちゃいましてね、インタビューできませんでした。殴られそうな雰囲気があったね、あれは。

なんとかビビりながら、主催者に近い人(まあまあガラが悪い)から入手した情報によりますと、今回の大会はサプライズ形式で行われるようです。すでにメンバーは集まっていますが、本日の主役となる方はまだ来ていないし、パチンコ大会があることも、こうやって仲間が集まっていることも知らないようです。

友人の一人が、パチンコ行こうぜーと連れ出して、店に来てみたらいつもの仲間が待ち構えている、そのままパチンコ大会へ、金額制限と時間制限を設けて、チーム分けを行ってどのチームがいちばん当たりを引けるのか、とやるようです。

今回、大会機種として選定されたのが「Pスーパー海物語IN沖縄55」、こちらが11BOX導入されていて30台ほどあるのですが、そのうちの20台を打つということでお店からの許可を得ています。

「連絡がつかん、寝てるのかもしれん」

いよいよ、朝の入場抽選が始まろうかというタイミングで、おびき出し役のメンバーから連絡が入りました。いきなりアクシデントです。主役が不在。大会が開催されなくなります。そうなると、そこそこガラの悪い連中がただ海物語を打った昼下がりという事実しか残りません。

それならまだいいんですけど、僕個人として見ると、静岡まで来てタクシーの運転手さんに怒られただけ、という事実が残ります。それはあまりにも悲しいからやめてほしい。

「なんとか連絡取れたらしい。これからくる! ただ本人はスマスロの北斗うちてーって言ってるらしい」

まあまあガラの悪い人が興奮気味に報告してくれます。よかった。それにしても、スマスロ北斗を打つつもりできて海物語を打つことになったらビックリするな、と考えながら待ちました。

そんなこんなで朝の入場抽選の時間となりました。ただ大会参加メンバー(まあまあガラが悪い)は、一般のお客さんに迷惑をかけないため、入場抽選待機列ではなく、一般入場列に並びます。抽選に並んだ人数とガラの悪い一般列の人数がだいたい同じくらいという奇妙なことになっていました。

そこに、本日の主役となるお方が登場しました。なぜか一般待機列に並ぶ知った顔たちをみて驚き、なにかを察します。そして嬉しそうに一言。

「おいおい、ガラが悪い一般待機列だな」

まったくもって同感だ。

「みんなで楽しくパチンコ大会だぜ」

みたいな感じで盛り上がります。

さて、入場抽選も終わり、一般待機列の面々はそのまま大会機種である海物語沖縄のコーナーへ。けっこう時間差で入場しましたが、このコースには誰もいなかったので、そのまま座ることになりました。

こういった感じになりいよいよ大会スタートとなりました。ちなみに、いちばん手前、右側の方が本日の主役です。

だいたいブロック5人ごとに4つのチームに分けてどのチームが多く当たりを引けるのか、という感じなのですが、もちろんこの大会は本日の主役の「みんなでワイワイパチンコを打ちたいなあ」という願いを叶えるべく行われていますので、みんな心のどこかで「主役の台がバンバン当たってほしい、楽しんでほしい」と願っています。僕もそう願っていました。

本日の主役が打ち始めると同時に他のメンバーも打ち始めます。しっかり当たってくれ!

「あ、当たりました」

開始25回転。いきなり当たりました。主役とは関係ないところで当たりました。

やはり20人もいればいきなり当たる人もいますわ。20人が25回転させたら500回転してますからね、そりゃ当たる。

やはりパチンコの花形は当たりですよ。当たりが出たことによりメンバー全員が俺も当てるぞと急に色めき立ちました。もともとパチンコが好きな人たちですから、いつもスロットなんだけどなー、海物語なんて久しぶりすぎる、と言いつつも打ち始めると夢中ですよ

みなさん、熱くなるのはいいんですけど、今日はほらね、主役の方がいるわけですから、そちらも当たるように祈ってくださいね。

「魚群だ!」

めちゃめちゃ熱いやつじゃねえか。またもや主役と関係ないところで当たるぞ、これ。

当たった。

当たるのはいいんだけど、ほら、関係ないところでボコボコ当たるとさ、もっと本日の主役にさ、当たるようにさ。なあ。

「熱いの来た!」

本日の主役の台についにマリンちゃんが! キタコレ! これ熱いやつだろ! いけるだろ! これは当たるだろ! マリンだろ!

ぎゅーいん!ぎゅーいん! モロタ!

ビタッ!

だめだあああああああああああああああああ!!!!

なんで外れるんだよ!

「当たりました。しかも確変」

もう本日の主役とは関係ないところでボコボコ当たる。

なんか確変がガンガン続いてめちゃくちゃ派手な役物が躍動していた。

「みなさん、当たるのはいいんですけど、ほらね、本日の主役がね……」

「こっちも当たりそうです!」

当たりそうです、じゃねえよ。いい加減にしろ。

「当たりました」

「イエーイ!」

「こっちも当たったぞー!(しかも確変)」

とまあ、当初の目論見通り、当たった外れたと仲間内でワイワイ。決して大騒ぎすることなく、静かに盛り上がります。

「今日は何かの撮影?」

普段はあまり客がいないであろう海物語のシマで、大勢が打っていてワイワイしているので、何らかの撮影だと思った方々が話しかけてくる場面が多々ありました。今日は海物語が熱いのか?みたいな人もいました。

「いえ、お店に許可取って仲間内でやってるんですよ」

「楽しそうね」

僕もこういうのは初めてなんですが、みんな楽しそうでした。ただ、主役にだけ当たってほしい。

ただまあ、本日の主役の台、当たんないんですわ。取材している立場からしても、主役にバシッと当ててもらうと、記事もビシッと締まるってものなんですが、主役が当てた、大団円!俺たちのメモリー!みたいに行きたいんですけど、なかなか上手くいかないんですわ。

主役とは関係ないところでは当たる。バンバン当たる。

バンバン当たる。

当たる。

当たる。

スタートして結構時間が経過し、確率分の回転数まで到達したので、だいたいの参加者がひと通り当たった状態となりました。

確変が終わらず爆連している参加者までいる始末。

ただ、

本日の主役だけはしっかりとハマっている。大会じゃなく、普通に打ちに来ていたら、今日はあかんしもう帰るかーってなってもおかしくないくらいハマっている。

といったところで制限時間がきたので大会は終了。確変中と時短中の人だけそれが終わるまで打ち続けて終了となりました。結果として、本日の主役は当たりませんでした。

みなさん、けっこうガラが悪い感じなのに、決して大騒ぎするわけでもなく、ただ静かにワイワイ盛り上がってくれて、本日の主役の願いである「みんなでワイワイパチンコを打ちたい」が達成されたのではないでしょうか。

といったところで、店を出たところで記念撮影。

ガラが悪い。

とても楽しい大会でした。これだけの人が主役の願いを叶えるために駆けつけてくれる、とてもいいものを見させてもらいました。

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昨今のパチンコ屋には独特の匂いがあるように感じます。設置された機械から漂う金属っぽい匂い。新台から漂う新品の匂い。誰かが飲んでいるコーヒーの香り。加熱式タバコの匂い。それらが混ざり合って独特の匂いを作り出しているように思います。

匂いは記憶と密接に関係しています。

きっと、どこかでこのパチンコ屋の匂いを感じた時、僕は今日の日のことを思い出します。誰かのためにこれだけ仲間が集まってワイワイとやった記憶をお思い出すでしょう。きっと参加者の皆さんも同じだと思います。

僕の知人の源さんも忘れられたくないから、更新の通知を明日に持ち越すと言っていた。それが有効かどうかは分からないけど、それによって僕は新品の匂いを嗅ぐと源さんを思い出す。導入されたばかりのスマスロの匂いで、取材しながらフッと源さんのことを思い出していた。

人は忘れられたくない生き物です。それと同じで、僕らも同様に誰かのことを忘れたくはありません。けれども、どうしても僕らの記憶は薄れていきます。だからこそ、その場の匂いを感じることは大切なのかもしれません。

取材を終えて静岡駅へと舞い戻る。静岡駅は人がたくさんいて、ぜんぜん寂しくなんかなかった。

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