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「日本スゴイ番組」が合わない人でも少しだけこの国を好きになれる、珠玉の名作映画10選

海燕

偏愛・脳汁を語るサイト「ヲトナ基地」では、多数の「愛しすぎておかしくなるほどの記事」をご紹介してまいります。 ヲトナ基地で今回紹介する記事は「「日本スゴイ番組」が合わない人でも少しだけこの国を好きになれる、珠玉の名作映画10選」。海燕さんが書かれたこの記事では、日本の美点を味わえる映画への偏愛を語っていただきました!

あなたは、わが日本の「良いところ」といえばどこを思い浮かべますか?

もちろん、この問いには千差万別の回答がありえることでしょう。わりあい多くの人の支持を集めそうな答えを想像するなら、生まじめで礼儀正しいとされる国民性、清潔にととのえられた日常空間、それに世界有数の犯罪率の低さ、治安の良さといったところでしょうか。

そういった要素は、「良くないところ」と表裏一体といえるかもしれませんが、それでも、この国に住むわたしたちがありがたく享受している「日本の美点」であることは間違いありません。

とはいえ、最近、テレビ番組などでことさらにくりかえされている過度に日本のすごさを称揚する論調には付いていけないものを感じる人も少なくないはずです。

べつだん、この国を嫌いなわけでなくても、あまりに「日本スゴイ!」と絶賛されると白けてしまう。そういう心理は特別なものではないでしょう。

しかし、そういう人であっても、たとえば映画や小説のなかでその登場人物の目を通して日本の「ちょっと良いところ」を見せられると、「住みやすそうなところだな」と感じたり、「なんて綺麗な場所なんだろう!」と感心したりすることがあるはず。

そこで、この記事では、そういった「ふだんはなかなか気がつかないわが日本のささやかな美点」をさまざまな視点から描き出した映画を10位から1位まで10本紹介し、少しだけ「この国を好きになれるかもしれない」と感じていただきたいと考えています。まずは、第10位から始めましょう。

10位『しあわせのパン』

『しあわせのパン』。そこまで有名な映画ではないかもしれませんが、なかなかの秀作です。風景の魅力という意味では、この作品を超える日本映画はなかなかないでしょう。

それもそのはず、この作品の舞台は北海道、それも洞爺湖が見られるあたりなのです。北海道の雄大な土地を背景に、四季折々の物語がくりひろげられます。まさにタイトル通り、観るとしあわせになれる映画といえるのではないでしょうか。

これもまたひとつの「日本の風景」。たとえば今回は映画縛りということで取り上げなかったドラマ『日常の絶景』などと合わせると、面白いマリアージュを楽しめるのではないかと思います。

9位『マイマイ新子と千年の魔法』

『この世界の片隅に』の片淵須直監督による『アリーテ姫』に続く長編アニメーション映画です。『この世界の片隅に』ほどの知名度はないかもしれませんが、これもまた圧倒的に面白い!

正直、見るまえはどうせ「教育的」で「道徳的」、つまりエンターテインメントとしては退屈なシロモノなんでしょ、などと思い込んでいました。そんな自分を殴りつけてやりたいほどの圧巻のクオリティ。

何より印象的なのは作画のみずみずしさです。かつてはあった昭和、そして平安といった過去の時代の日本の風景が、秀抜なアニメーションによって再現されています。

片淵映画の特徴である「異常なまでに精緻な考証」はここでもぼくたちを映画のタイムマシンに乗せてくれるのです。

8位『天気の子』

8位に新海誠監督の『天気の子』を持ってきてみました。説明は不要でしょう。数年前、日本だけではなく東アジア全体で大ヒットを記録した傑作。おそらく、現時点での知名度という意味では、今回あげた10作品のなかでも最高かもしれません。

この映画の魅力は、新海監督の「天才の目」を通した東京の風景の美しさにあります。いままで東京や日本の都市をとくべつ綺麗だと思ったことがない人(だいたいそうなんじゃないでしょうか)も、この映画を観るとその神秘に魅了されてしまうはず。

同じあたりまえの風景であっても、観る人によってこれほど違う。そういう、ある意味では残酷なほどの真理を教えてくれるという意味で、新海映画の魅力は尽きません。

7位『リトル・フォレスト』

わが日本はいまや世界でもちょっと「食」にうるさい国、というポジションを獲得したように思えます。いわゆる「贅沢な美食」の素晴らしさもさることながら、より日本を象徴しているのは日常的な食文化の豊かさ、楽しさ、そしてまた美しさでしょう。

この「夏・秋」、そして「冬・春」に分かれた『リトル・フォレスト』二部作は、その「食」の充実を思わせてくれる一作。

この映画について、ストーリーを解説することには意味がありません。ただ、そこで延々とくりひろげられる「日本の食の風景」を舌なめずりしながら観つづけることに意味がある、そんな映画です。世に「美味しい映画」は数ありますが、個人的にはそのなかでも一、二を争う傑作。オススメです。

6位『ちはやふる』

6位は『ちはやふる』。この映画を取り上げたのは、いわゆる「学園もの」、それも「部活もの」からひとつ採っておきたかったからです。

「部活」という日本独自のシステムには功罪があり、ぼくなどは面倒だからと逃げまわっていたほうなのですが、一方でアニメや映画などを通して諸外国の人々を魅了するユニークな概念でもあります。

その部活ものの最高傑作という意味で(『劇場版けいおん!』や『THE FIRST SLAM DUNK』と迷った末に)『ちはやふる』を選んだのは、われながら適切な選択だと思います。

とにかく一作の青春映画としてこれほど面白い作品はまずないのではないかと思うくらいの出来。何十巻もある原作をタイトな三部作にまとめあげた高度な脚本技術を味わってみていただければ。

5位『乱』

5位は『乱』。いわずと知れた巨匠・黒澤明の名作です。今回、この記事の企画を立てた段階で時代劇をひとつふたつ入れようと考えていました。アニメ版の『源氏物語』や、溝口健二の作品なども考えたのですが、やはりここはということで世界のクロサワから選ぶことに。

黒澤映画には他にも無数に名作があるわけなのですが、「日本的な美」を感じさせるという意味ではこの『乱』が最高なのではないかと思います。

ストーリーテリングの充実という意味では過去の作品に及ばないとしても、映像的な意味では数ある黒澤映画のなかでもまさに珠玉といって良い映画。異常なまでに洗練された「日本の美術」を心ゆくまで味わえる一作といって良いでしょう。

4位『ピース・ニッポン』

4位は『ピース・ニッポン』です。これは数年もかけて「日本の47都道府県の風景」を撮って撮って撮りまくり、それらをみごとに編集して、一本の映画に仕上げたもの。

始まりからしてかぎりなく美しいパウダースノーの原野がひろがり、その後も小泉今日子と東出昌大のナレーションによって紹介されながらさまざまに綺麗な風景が続きます。

今回取り上げた他の作品とくらべ、「ささやかな美点」というよりは「美しいわが日本」を大上段に掲げた作品という印象をあたえるかもしれませんが、まあ、それはそれで良いでしょう。じっさい、綺麗だし。

こういった日本の妙なる自然、文化はいつまで続くのでしょうか。いつまでも守っていきたいものだと思わせるものがあります。

3位『WOOD JOB!(ウッジョブ)~神去なあなあ日常~』

これ! この映画、好きなんだよなあ。「日本の林業」をテーマにしたライトでカジュアルで、でも深みのあるコメディです。

「え、林業ってそれ、映画になるの?」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、じつはちゃんとなっているんです。この映画を観れば、林業という産業が(いくらでも映画に描かれていない問題点があるには違いないにしろ)、数百年ものタイムスケールを感じさせる雄大なものであることに気づかされるでしょう。

主役の染谷将太の演技が素晴らしく、観ているといつのまにか都会人の視点から「林業サイド」の視点へ移行させられてしまいます。

2位『舟を編む』

『リトル・フォレスト』や『ピース・ニッポン』といった映画は「日本食」、「日本の風景」の「ささやかな素晴らしさ」を感じさせてくれる映画ですが、「日本語」に着目してみると、この『舟を編む』がオススメできるのではないかと思います。

「辞書づくり」というとても映画になりそうにない題材をキュートにまとめ上げた物語が絶品。この映画を観たあとは、いつもより少しだけ言葉遣いに気をつけるようになるかも。

ちなみに、NHKで放送されたドラマ版も、この映画とはまた異なる筋立てながら、非常に完成度の高い仕上がりでした。NHKオンデマンドなどで視聴できる環境の方は、そちらの作品もオススメです。

1位『青春18×2 君へと続く道』

そして栄えある(ないかもしれないけれど)第1位は『青春18×2 君へと続く道』です! いやもう、これくらい日本の「ちょっと良いところ」、あるいは「ささやかな美点」を思い知らさせてくれる映画は他にないのではないでしょうか。

主人公は、長いあいだ経営していたゲームメーカーを追われてしまった台湾人の若者。かれはそれを機に、かつて恋した人が住んでいた日本を旅してまわります。

そこでかれを待っていたのは大好きなアニメ『SLAM DUNK』の「聖地」や、岩井俊二の映画『LOVE LETTER』で観た美しい風景。かれはその旅のなかで過去の哀しい思い出と対峙していくことになるのです。

が、そういう映画の筋立てとはべつに、この映画の良さは台湾人主人公の目線から、日本人がなかなか気づかない日本の良さを感じさせてくれるところでしょう。観終えたあとは見慣れた日本の風景も意外に悪くないかもな、と思えるそんな傑作です。

【ほんの少しだけ、好きになる。】

さて、いかがでしたでしょうか。この記事で取り上げた10作は、当然ながら相互に何の関係もない作品ばかりなので、どれから観ていただいてもかまいません。

いわゆる「メジャーどころ」からは外れた作品も多いので、一部の熱心な映画ファンを除けばすでに観たことがある作品ばかりというわけにはいかないかもしれませんが、もし良ければぜひあたらしい扉をひらいてみていただきたいものです。どの作品からも、「日本のちょっと良い感じなポイント」を見つけだすことができると思います。

わが日本には、もちろん、たくさんの課題や社会問題が山積しており、決して「美しいだけの国」、「素晴らしいだけの国」とはいえないかと思います。それでも、その「ささやかな美点」をちょっとずらした視点から見てみるとき、「良いところだってたくさんあるのだ」というあたりまえの事実に気づかされます。

これはもちろん、日本だけの話ではないでしょう。そもそも自分たちの生きているあたりまえの人生や日常をフィルムに切り取り、とくべつなものとして見せてくれる、そういう魔法があらかじめ映画にはそなわっているのだと思います。

この、あらゆるコンテンツが安価かつ簡単に入手し消費できるようになった時代において、なお、わたしたちの多くがわざわざ映画館へ足をはこび、そのくらやみのなかで、一とき、映像の夢にひたろうとするのは、その魔法をどこかで信じているからなのではないでしょうか。

そしてそれは、日本のすごさ、素晴らしさを大上段に掲げる書籍やテレビ番組とはまた違うやりかたで、この国の魅力を知らしめてくれるのです。

「住めば都」。どの国であっても、そこに住む人はその場所に愛着を抱き、「ささやかな良いところ」を見つけだして誇るものですが、ぼくもひとりの日本人として、少しでも日本を良いところにしていきたいと考えています。映画の魔法はそんなぼくもふだんは忘れ切っている「この国の少しだけ魅力的な風景、人々、文化、歴史」を思い出させてくれるのです。

それはまさに他の国と比べて優れているの劣っているのと論議する必要もないくらいナチュラルな良さ。これらの映画を観終えたとき、きっとあなたもほんのわずかこの国を好きになれていると思います。

ぼくはそれだけで十分以上にたいしたことだと思うのですが、いかがでしょうか。もし良ければあなたの思う「ちょっと日本を好きになれる映画」を教えてください! そこにもきっと、「だれかが少し好きな日本」が映し出されているのでしょうから。

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