高頻度データによる「カンニング」投資法
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日経平均の史上最高値更新、老後2000万円問題、新NISAなど、ニュースなどでも聞いたことがありませんか? これ、全部投資の話題なんです。こんな話題が絶えないのが、今の日本でして。偏愛や脳汁と、日々好きなことに夢中な皆さんの中にも、投資デビューをした、もしくは考えている方がいるかも……なんて思いながら、この記事を書いています。
投資って、どんなイメージを持っていますか? 株? 不動産? それとも、中年ぐらいの人がしているイメージ? 実は投資といっても、長期(ガチホ)、短期(スイング)、超短期(スキャルピング)など様々なスタイルがあり、それぞれ方法も考える時間軸も異なります。みんながみんな別々のゲームをしていると言ってもいいくらい、投資の手法もスタイルも星の数ほどあるんです。
話題になったアメリカの高額なラーメン代
投資をしていると、「誰しもがそうだと思う長期の予想」がガラリと音を立てて崩れ、市場の景色が一瞬で変わるマジックのような場面に遭遇することがあります。その時期を当てること、その変化に上手く乗ることが投資をする上での醍醐味と言ってもいいでしょう。どんなにゲームが違っても、みんなそこを見極めるためにやっている、という点だけは同じなんです。「長期シナリオを揺るがす短期の変化」がいつどこで起こり得るのかを感じ、そこにベットする(もしくは回避する)ことが非常に重要です。
市場の景色が変わった例を挙げると、最近では2022年11月があるでしょう。当時、「米国ではインフレが止まらない」という悲観的な見方が多数派でした。メディアも連日そのような論調で、「ニューヨークのラーメンが一杯3000円」といったことを判を押したように報じていたと思います。こういう時、「隣の店では1枚500円でピザを売っているのではないか」「そもそもアメリカ人はそんなにラーメンを食べないのではないか」と想像力を持つことが重要になります。
【参考】ニューヨークのラーメンは一杯○○円!?インフレってこういうこと:日経xwoman Terrace (nikkei.com)
S&P500は2022年11月を底に上昇トレンドに切り返した
投資家の思惑と現実との間に「ズレ」が蓄積したところに、2022年10月分の米国物価統計が予想外に下振れ、市場は痛烈な逆ネジを食らうことになりました。株式市場では弱気筋が買い決済を実行し、過去1年近くジリ下げが続いていた市場は一日で上昇トレンドに切り替わりました。
【参考】S&P 500 (SP500) | FRED | St. Louis Fed (stlouisfed.org)
経済は多くの指標で複眼的に観察することが重要です。手前味噌ですが、私は複数の指標をウォッチしていた結果、「インフレが近々減速しそうだ」ということを指標発表の1週間前に呟くことができました。(なお長期では外れていますが……)
アメリカのインフレ率を予測する
2023年になると、今度は「インフレ減速には不況が必須」と、米経済悲観論が多く聞かれるようになりました。高インフレと高金利でスタグフレーション不可避、クレジットカード破産・住宅ローン破産で銀行破綻、リーマンショック再来、といった具合です。
しかし、明日の天気を知りたいのに40年前(スタグフレーション)の新聞を持ってくる人はいないでしょう。それがダメなら20年前(ITバブル)、それもダメなら14年前(リーマン・ショック)の新聞を持ってきても同じです。明日のことを知りたいなら、昨日今日の新聞を持ってくるべきです。
例えば、現代では一部クレジットカード会社からデータが公開、または販売されており、米政府の公式の小売売上高に先行して動く様子が観察されます。「40年前はこうだった」「20年前はこうだった」という講釈を聞くまでもなく、「明日の答えを今カンニングする」かのような分析を可能にしています。
クレジットカード消費額が小売売上高に先行して動いている
このように、現代では「高頻度データ」や「オルタナティブデータ」といったものが普及し、昨日今日のデータから明日の結果を読み取ろう、カンニングしてやろうという分析が増えてきています。
有名なものでは人工衛星を使ったデータなどがあります。一般的に国家の原油備蓄は量も場所も秘密な場合が多いですが、プロは宇宙からその場所を探し出してタンクにできる「影」の大きさなどから備蓄量を推定しようと試みます。「某国は経済が好調だ」というデータを得た時、「だから原油をたくさん消費するはず」→「今後原油価格は上がる」というのが一般的なアイデアですが、ここに「実は某国は以前買った原油を大量に備蓄している」という情報が加わると話が違ってくるわけです。2010年代からこうした情報を提供する企業が増えていきました。
原油タンク群。浮き屋根構造のため原油が減ると「影」ができる
他には、大気汚染濃度から景気を推し量ろう、という人達もいます。発電所、工場、トラックなど、経済活動はとにかく排気ガスを発生させますが、大気汚染状況のデータを集めることで政府の経済統計発表の前に結果を「カンニング」してやろうというわけです。実は世界の大気汚染状況はプラットフォームに情報がまとめられており、こうした情報を使えば個人でもそれなりに分析ができたります。
【参考】安心安全に蓄える|日本の石油備蓄事業|福井石油備蓄株式会社 (fosco.jp)
世界各地の大気汚染情報は簡単かつ詳細に手に入る
もう一つだけ紹介すると、日本の有名な企業「リクルート」のアメリカ子会社に「indeed」という会社があり、ここは自社のサイトに載っている求人情報を基に、職業毎の求人件数を時系列で発表しています。この数値はアメリカ政府の公式求人統計に先行するような動きを見せており、突き詰めれば米政府統計の中身を前もって知れるかもしれない可能性を秘めています。
【参考】https://waqi.info/
民間の求人データから公式の求人統計を予想する
このように、高頻度データやオルタナティブデータはこれまでになかった視点を投資家に提供してくれます。経済指標にベットすることはややもすると「指標ガチャ」と悪口を言われがちです。しかし、「カンニング」投資法により無数にある指標を相互に結びつけ、因果関係や連動性を見出すことは、新たな投資のユニバースを得るきっかけにもなります。若い方々はこれから否応なしに投資の世界が身近になっていきます。ニュースを聞いて納得するだけでなく、是非「ニュースの裏側」にご自身の想像を巡らせ、データという光で照らしてもらえればと思います。
※本投稿は金融取引を勧める意図はないことを申し添えます
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