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人の経費で高級和牛とスーパーの牛肉を食べ比べてみた

まくるめ
その役目についていることによって得られる特別の利得や特権
偏愛・脳汁を語るサイト「ヲトナ基地」では、多数の「愛しすぎておかしくなるほどの記事」をご紹介してまいります。

ヲトナ基地で今回紹介する記事は「人の経費で高級和牛とスーパーの牛肉を食べ比べてみた」。普段は高級な食材を味わう機会があまりないという、文筆家のまくるめさん。そんなまくるめさんが、いつも食べている牛肉の約10倍の価格の高級牛肉を食べたとき、一体何が起きるのか!?

この記事では牛肉への偏愛……かと思いきや、誰もが好きであろう「〇〇」への偏愛を語っていただきました!

先に謝っておきます

お詫びして頭を下げる男性の無料写真素材/ぱくたそ

えー。今回はタイトル通りの内容でございます。

これは、「三田牛」と「但馬牛」という非常に美味しい高級和牛を人様の経費で購入いただき、「タダで食べられてンマーイ! いやあ、人の金で食べる肉は最高ですなあ。それはそうと、貴方なんでこんなもの読んでるんですか?」という内容の記事です。ほかに仔細なし。文句を言われると困るので、先に書いておきました。

なので先にとりあえず謝っておこうと思います。

申し訳ございません。

以下、やんごとなき読者の皆々様におかれましては「何だこの書き出しは?!」「俺は何を読まされているんだ?」などといった感想が脳裏を去来すると思います。ですから、わたしは先に謝っております。

どうかコメントのさいは、この点を加味し、厳しいお言葉をいくらかお控えになって、地蔵菩薩のような心持ちで感想を書いていただきたく存じます。はい。そうです。先に謝ったやろがい。と、こういうことでございます。

……あ、怒ってます?

お怒りの方は、とりあえず、かわいい猫ちゃんなどを思い浮かべながら5分ほど深呼吸してからコメントされるとよろしいかと存じます。15分だとなおよろしいです。

というのも、怒りをつかさどる物質であるアドレナリンは、動物にとって緊急事態に対応するためのホルモンです。その性質上、作用はあまり長続きはしない傾向があり、時間経過で落ち着いてきます。

カッとなっても、しばらくすると後悔する原因がこれです。これが最近流行りのアンガーマネジメントというやつの原理でございます。そんなわけで、あまり怒らないようによろしくお願いいたします。お願いしましたよ。

……さて、初手からもうグルメ関係ないだろって話を始めてしまいました。なぜわたしは高級牛肉の味について書けと依頼主から注文されたのに、アドレナリンの話から入っているのでしょうか? そして読者であるあなたは、なぜそれを読まされているのでしょうか?

われわれは今、あきらかな不可解に直面しています。

しかし、もはや日常でこの種の齟齬は珍しくはないということに注目すべきです。上記の乱文は、実はそれを表現するためのいわばデモンストレーションだったと言ってもいいかもしれません。

考えてみてください。現代社会は自己増殖的に複雑になりつづけています。もはや社会全体を見渡せる人間は一人もいないでしょう。見ているあいだにも変化し続けています。このような時代にあって、前述の問題などは大したことではないわけです。

では、わたしたちに必要なことはなんでしょうか。それは、むしろ急速な時代の変化のなかでも不変なもの、少なくともそうであると信じる価値のあるものを、ゆっくりと時間をかけて、ひとつひとつゆっくりと見つけていくことではないでしょうか。

そのような、時代のシフトに対してロバストな、いわば「定点」をいくつ見つけられるか。それがこれからの人間がやるべき仕事だと思います。

いつの時代もみんな大好き、それは……!

そんなわけで、いつの時代も変わらないものを見つけましょう。

その例をひとつ、わたしは提示します。

わたしは一応、当コーナーの原稿を依頼されるにあたり、依頼主さまからは文章のテーマを「偏愛」とするよう仰せつかっております。つまり、わたしが個人的に愛を注ぐものについて書くというテーマの記事なのです。これは。なので第1回は、アリと共生する不思議な植物について書いております。

さて、ここで、もしかすると理解力がプラトン並みに優れている方はこう思われたかもしれません。「え? それじゃあ、今回のタイトルとテーマが合わないんじゃないですか?」と。

そうですね。わたしは牛肉が好きですが、「あれば食うし、食べれば美味しい」というぐらいで、偏愛というほどのものではありません。いわば牛肉に対しては必要十分な愛情しか感じていないと言えます。はい。牛肉とは身体だけの関係です。

では、この記事は「偏愛」を扱っていないかといいますと、実はそうではないのです。というのも、この記事には一見するだけでは分かりづらい裏のテーマがあるからです。

では、隠されたテーマとはなんでしょうか?

ヒントを出させていただきますと、これはわたしだけではなく、日本人全般がだいたい好きだと思います。いや。もっと主語を大きくしてもいいかもしれません。主語を東アジア人全般にしてもそれほど間違ってるとはいえません。

いや、あるいは全世界的に、人類はこれが大好きと言っていいと思います。それぐらい主語を大きくしても大丈夫でしょう。さらに言えば、過去の人類も現代人も、そして未来の人間も、だいたいこれが大好きだと思います。

ここまで主語を大きくできる「それ」はなんでしょうか?

え? わかった?

ふむ。だとしたら、おそらくあなたはこう考えたのではないでしょうか? この話の流れとタイトルから、これしかあり得ない、と。

問題の答え、それは「人の金で食う肉」だろう。と。

……惜しい! 非常に惜しい! それは正解ではありません。しかし正解に近い。いくらかのミスリードがあったとはいえ、もしあなたがそう答えたのなら。あなたは非常に物事を分かってらっしゃると言っていいでしょう。いわば分別というものがある。重要な物事の多くを人生から学んできたことでしょう。

では正解はなにか?

……答えは「役得」です。

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そうなの。

ためしに「役得」を辞書で検索すると「その役目に従事しているために特別の便宜があって得られる利益」とあります。ああ、もうこの響きだけでたまらないですね。特別の便宜! なんと甘美な言葉でしょうか。

世間には「役得」が溢れています。大きいものから小さいものまで。そしてみんな、基本的にはこれが大好きです。

たとえば、食品を扱う仕事をしていると、余りものが食べられることはよくあります。まあすぐに嫌になるとはいえ、役得の例と言っていいでしょう。

たとえば、株主総会というきわめて真面目で資本主義の根幹たる会合に行くと、自社製品がおみやでもらえたりします。

たとえば、出張先で会社の経費で特定のホテルに泊まると、領収書と一緒に不思議なクオカードがついてきます。

たとえば、金融機関につとめていると、ふしぎなお金が……冗談です。こないだ捕まってましたね。

まあ最後のはともかく、「役得」はもうみんな大好きです。なにしろ「わたくしは天下国家のために働いている真面目な社会人でございます。あー大変だ。実に忙しい」みたいな顔しながら、いい思いができるんですからね。コタツでアイス食うようなもんなんだ。ええ。

さて、役得でいうと、ライターなんてのは美味しい思いをする機会が少ない仕事の部類です。人と違った経験ができるとか、平日に動けるとかはありますが、そんなのねえ、クオカードやマイルに比べたらねえ。

そんなわたしが、今回、記事の執筆にかこつけて人様の経費で肉が食えるんですからね。盛り上がらないはずがない。

えっ、共感できない? 人の金で食う肉が嫌い? 特殊な思想をお持ちの方かな?

最高級の牛肉、届く

今これを書いているわたしは、まだ肉を受けとっていない状態にあります。

そんな私がいま原稿の片手間にフライパンにのせているのは、消費期限が3月17日の鶏むね肉です。ちなみにいまは3月22日となっております。半額引きでとりあえず買ったんだけど、忙しくて自炊できなかった。5日はけっこう自分の中でもヤバいほうです。

古くなった鶏肉って、だんだん味が鶏卵に似てくるんですよね。タンパク質が分解してるからなのか、卵の黄身みたいな風味になる。流行りの熟成肉かな。しかし5日はちょっと自分にとっても未知の領域です。少量食って一日待ち、体に異常がないか確認し、それから残りを食おうかな……。

……と、思って毒見したところ、味覚と嗅覚が揃って「あかんわ」と言いました。異臭を通り越して、なんかの薬液みたいな臭いがします。あと、味がなんか苦い。肉が苦いのは初めてです。もったいないけどあきらめました。救急車とか呼んで社会のコストを使うのも申し訳ないですからね。ガイアが私に捨てろと言っている。

……とまあ、そんなことをやっていたら、最高級の牛肉が届きました。

その役目についていることによって得られる特別の利得や特権。(「デジタル大辞泉」より)

今回、わたしの懐を痛めずにいただけるお肉は「但馬牛」と「三田牛」という和牛でございます。末端価格は100グラムあたり1,000円を超えています。たかい。麻薬かな?

ちなみに、大麻の末端価格は1グラムあたり5,000円前後(検索により出てきた参考価格)で、純金の価格は1グラムあたり12,000円弱(執筆している2024年3月時点、田中貴金属のサイトをもとにした参考価格)、金属プルトニウムの価格は1グラムあたり165万円(アメリカ合衆国エネルギー省の2020年度の資料を参考に1ドル150円とした参考価格)なので、麻薬や純金やプルトニウムに比べたら安いですね。

なお、「普通のお肉も買って比較してください」ということで、別途そのお金もいただきました。近所のスーパーでオーストラリア産の輸入牛肉、100グラムあたり200円ぐらいのものを買わせていただきました。この比較用の一般牛肉ですらわたしにとっては高級食材という事実!

ちなみにふだん私の食っている肉の値段は、値引きシールなども加味してだいたい100グラムあたり44~100円ぐらいです。グラム価格が3ケタになると高いと感じますね。つまり今回のお肉はわたしが普段食ってる肉の10倍の値段です。気迫充分です。

……なんだろう。こんなこと書いてると、ふっと思うんですよね。

わたしもけっこういい年なんですけど、周囲の同年代の人とかもうけっこう偉くなってたり収入もいいんですよね。その分自分はやりたいことやってきたんで全然いいんですけど、こういう生活の基本のカードがまず違うんだなーってなりました。

ネットで有名な白木屋のコピペってのがあって、まあ出世した人が出世して無い人と白木屋で飲むみたいなやつなんですけど、それに近い気持ちというか、わたしだけ上京直後そのままで、時間が止まったみたいだなって思いました。たぶんみんながどんどん強くなっていったときのヤムチャとかって、こんな感じだったんでしょうね。

普通の牛肉と、高級和牛は何が違うのか?

親の目より見た、オーストラリア産の赤身

まあ重い話はさておき、肉を食いましょう。まずは比較対象のオーストラリア産の肉と、同じ形状の高級和牛の薄切り肉2種を食べ比べてみます。

まず食べてすぐに分かるのが香りの違いですね。とくに脂の香りです。よく、肉の味にはその動物が食べてきたものが反映されると言いますが、正確には脂に反映されるといったほうがいいでしょう。

油脂の質は食品の香りに影響します。脂はその性質上、揮発性のある香り成分を溶かし込む形になりますからね。最近はカップラーメンなどにも調味油がよく利用されていますが、脂をうまく利用することで従来は維持しにくかった香りを再現する意図を感じます。このように脂は「香りの運び屋」と言えます。

さて、オーストラリアの安い牛肉の方は、特有の臭いにおいがそれなりにあります。今回、味を分かりやすくするために何もつけずに食べたので、余計強く感じます。

輸入牛肉はしばしば牛肉特有の臭いが強いですが、これは草食動物の体内で牧草などが発酵した結果生まれた物質に由来します。「草食動物の肉は臭いがない」っていうのは、実は俗説なんです。「グラスフェッド」と呼ばれる牧草飼育の牛はとくに強くなります。

これ自体は異常なものではなく、スパイスやワインやトマトなどを用いる料理ではむしろコクになる面もありますが、日本人はこれを好まない人が多いのも事実。とくに和風のあっさりした味付けとはあまり相性がよろしくないですね。

一方で和牛の方はさすがに日本人好みというか、マイナスに感じる臭いはほぼありません。もし何も知らずに食べたら別の生き物の肉と感じるでしょう。脂の香りはミルクとナッツをあわせたような感じで、ホワイトチョコレートを思わせます。

食感についても、和牛の方はやはり口の中で自然にほぐれるような感じがあります。これはやはり肉の元々のやわらかさにくわえ、均等に入ったサシによるものが大きいでしょう。味も、コクを感じさせつつも、脂のわりにしつこくない印象です。個性はあるのにクセはないという品を感じるお肉でした。

但馬牛と三田牛も食べ比べてみた

高級和牛を焼いたもの

さて、次に厚めに切られた肉で、和牛同士の比較をしてみます。今回、但馬牛と三田牛というそうです。わたしは肉の産地名とかにうといので、どこがどうとかはあまり分からないのが正直なところです。

いただいた説明によれば、どちらも兵庫県の牛肉ですが、三田牛のほうは但馬牛として生まれ育った子牛の中でも、特に一定の基準を満たしたものらしいです。まあ洞窟マムルみたいなもんですかね……。

その2種類の食べ比べ……ということなんですが、さすがにこのレベルになるともうどっちもうまいから正直わからない。

ただ脂の風味としては、但馬牛よりも三田牛のほうがより淡い感じというか、脂が多いわりにさっぱりとした印象が強いですね。その分、後味としてミルキー&ナッツィーな風味が追ってくるのが、よりはっきりわかります。

肉を食って救われよう

虹色の背景のぼやけた画像/O-DAN

そんな風に味わっていると「あの感覚」がやってきました。

糖分を一気に補給するとシュガーラッシュになるのと同じ感じで、牛肉を食べると、謎のテンションが来ますね。牛肉ラッシュというか。脳汁が出るというやつです。

今、血の中をグングンと肉の分子が巡ってる感じです。これを書いている今は夕方5時ですが、この時間になるまでなにも食ってませんでしたから、もうすごいものがあります。

やっぱちょっと薬物性があると思うなこれ。チョコレートやコーラや中トロの握りに薬物性があるのと同じようなものが和牛にもあると思う。

どんどん、和牛がキマってきました。

今、これを書くのに向き合ってるモニタが、もうぱあっと明るく見えてきます。文字の輪郭もいつもよりシャキッとしているし、キーボードのキーは指に吸い付くようです。白く光る液晶の画面を見ていると、オレンジからグリーンにかけての光彩がうっすらと見えます。

体内に意識を向ければ、和牛がおさまった胃がそのぬくもりを抱えながらゆっくりとリラックスし、暖かい光のような意識の波が脊椎に沿うようにゆっくりと上がってきます。思わず背筋をすっと伸ばしたくなる。先ほど和牛が通った喉を息が通っていくのが心地よく、生命を感じます。

目を閉じると、やがて意識は額の骨の内側に集まり、ムズムズとした感覚とともに黄色い青の光を放って脳天に抜けていきますね。満たされた気持ちになります。あがなわれた気持ちとでも言いましょうか。この感覚は全ての宗教の根幹だと思います。

結論ですが、三田牛は宗教でした。

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