偏愛・脳汁を語るサイト「ヲトナ基地」では、多数の「愛しすぎておかしくなるほどの記事」をご紹介してまいります。 ヲトナ基地で今回紹介する記事は「野菜? それとも果物? 「赤い絶品」トマトを巡る意外な真実、そして美味しさの秘密」。手紙さんが書かれたこの記事では、トマトへの偏愛を語っていただきました!
考えてみると、人はなにかと「赤いもの」にひかれる傾向があるようだ。子どものころは夏にスイカが食卓に並ぶと踊らんばかりに(本当に踊ったわけではないけれど)歓喜。冬になればサンタクロースの姿が頭にチラついて、クリスマスが来るまでずっとソワソワしていたものだ。
僕にとって赤いものといえば、どういうわけか「トマト」が真っ先に思い浮かぶ。トマトって美味しいですよね。なんでトマトって美味しいんだろう? と、ときどき真剣に考えてみるんだけれど、いまだに答えが見つからない。
だが、こんなに美味しいトマトなのに「美味しくないよね」と、トマト嫌い派を堂々と宣言してはばからない人が一定数いるのも事実だ。子どもの嫌いな野菜といえば必ず上位にランクインするし、大人になっても好きになれないという人もいる。僕は子どもの頃からトマトにはわりと好感をもっていて、大人になった今では一番好きな野菜といっても過言ではない。
でも調べてみると、トマトって実は植物学的に野菜ではないって知っていましたか?トマトはナス科の果菜で、野菜として扱われることが多いから「野菜的果実」と呼ばれている。(でも、農林水産省と総務省の区分によって、日本ではトマトは野菜に分類されているというややこしさ。)
僕はトマト大好き派を自認しておきながら知らなかった。それなのに嫌いな野菜に無理矢理ランクインされるトマトには同情を禁じ得ない。同じ赤いもの仲間であるスイカほど人気があるわけでもなく、人によって野菜と言ったり果物と言ったりする。トマトってけっこう気の毒な立場にある食材なのだ。
気の毒だといえば、また子どものときの話になるんだけれど、夏休みに祖母の家で食卓に出されたトマトも気の毒だった。祖母はあまり料理が好きなタイプではなかったのだが、トマトのスープを作ってくれたことがある。それまで何度も祖母の手料理を食べたことはあったが、トマト料理が並ぶことはほとんどなかったからいささか虚をつかれてしまった。
恐る恐るスープを一口飲んでみると、どうにも美味しいと言えるようなものではなかった。味はまったく覚えていないが、「あまり美味しくない」という記憶だけは鮮明に残っている。「せっかく作ってくれたんだから」と何度かスプーンですくって飲んでみた。でも結局、完食することなくギブアップしてしまった。
スープを残したときの祖母の残念そうな顔は、なんとも気の毒だったけれど(お婆ちゃんゴメンなさい)、あの残されたトマトスープもまったく気の毒としかいいようがない。あのスープは結局どうしたんだろう? 祖母が全部飲んだのか、それとも誰にも知られることなく廃棄物として処理されたのか。祖母が亡くなったいまとなってはもう確かめようもない。
幸か不幸か、僕はトマト料理が好きで最近よく作っているけれど、亡くなった祖母とは違って、母はわりと料理が得意なほう。なので僕の料理好きは母の影響を少なからず受けているのかもしれない。
トマトが赤くなると医者が青くなる

トマトといえば栄養豊富な野菜(ここでは野菜としておく)としても有名で、特に「リコピン」はトマトの代名詞といってもいいかもしれない。リコピンの他にもビタミンが豊富でカリウムも含まれる。
これだけ健康に良い野菜なので、世界のどこかでは「トマトが赤くなると医者が青くなる」と言われている。トマトの栄養価が高いことを婉曲的に表現してるわけだが、実は生で食べるより加工したほうがリコピンの吸収が格段に上がるらしい。しかも旨み成分の「グルタミン酸」もたくさん含んでいるから、調理することでトマトの旨みがぎゅっと引き出される。これだけ世界中にトマト料理があるのも当然といえば当然なのだ。
でも世界的な視点で眺めると、日本人はあまりトマトを食べない民族で、トマト大好き派の僕としては残念で仕方がない。世界平均では一人あたり年間20kgも消費しているのに、日本人はその半分の10kgしか食べていないそうだ。僕たちはもっとトマトについて、いやトマト料理について知るべきなのではないだろうか。
というわけで、まったくの独断と偏見で僕の好きなトマト料理を紹介します。一人でも多くの人がトマト料理を好きになってくれたら、これほど嬉しいことはない。
僕の選ぶトマト料理
①トマトソーススパゲティ

お腹がすいたときの白米は格別に美味しいけれど、スパゲティも負けずに美味しい。特にトマトを使ったスパゲティは僕たち日本人にも馴染みが深い。
ニンニクをオリーブオイルで熱し、刻んだ玉ねぎとトマト缶をフライパンでしばらく炒め、茹で上がったスパゲティを絡める。タバスコで辛味を加えてもいいし、粉チーズをパラパラ振りかけてマイルドに仕上げてもいい。そのときの気分で味の方向性を決められるのもトマトソーススパゲティの良さのひとつだ。
口に含んだときのトマトの酸味と旨みは、空腹であればあるほどマシマシになる。できればトマトソースが口の周りにつくのも気にぜずに貪りたい。無心に貪った分だけ満足感が爆増するからだ。
②トマトカレー

S&Bのカレー粉を使ってカレーを作ることがある。多くの人が知っていると思うが、カレーは文句なく美味しい料理のひとつだ。ニンジンや玉ねぎ、じゃがいもを入れた野菜たっぷりカレーもいいけれど、シンプルにトマト缶だけを入れたトマトカレーも美味しい。
ケチャップ、ウスターソース、砂糖、しょう油で味付けしてトマトを煮込むと、旨みがジワジワ引き出される。トマトだけでもこんなに美味しくなるのかと驚くはずだ。とろけるチーズをトッピングしてもいい。スパイシーさがおさえられてよりマイルドになる。あまり食欲がないときでもペロッといけてしまう、それもトマトカレーの良さだ。
③鶏肉のトマト煮込み

肉にもいろんな種類があるけれど、僕は圧倒的に鶏肉が好きである。豚肉も牛肉も悪くないけれど、普段料理するときは鶏肉をチョイスすることが多い。別に何か理由があるわけではない。鶏肉料理といえば親子丼とか照り焼きとかカシューナッツ炒めとか料理名をあげればキリがない。中でもトマト煮込みは僕の好きな鶏肉料理の一つとして真っ先にあがる。
鶏のモモ肉をトマトで煮込むと両者の旨みがグッと増す。それもそのはずで、トマトが持つグルタミン酸と鶏肉の持つイノシン酸が掛け合わされると、単体で食べるより旨みが何倍にも強化されるのだ。トマトの旨みと酸味をまとった鶏肉は、舌の上でジュワッと溶けてくる。冷蔵庫の中にトマトと鶏肉があるとき、一緒に煮込まない理由があるだろうか??
④トマトゼリー

僕はゼリーが好きだ。夏の暑いときに食べるゼリーは格別だけれど、冬の寒いときに食べても美味しいものは美味しい。みかんやキウイや柿のゼリーを作ったことがあるけれど、僕はやっぱりトマトのゼリーが好きなんです。
トマトを細かく刻んでミキサーにかけ、水と砂糖を加えて混ぜ合わせる。最後にゼラチンをいれて冷蔵庫に冷やすと簡単にトマトゼリーが作れてしまう。トマトが苦手な人でもトマト感をあまり主張してこない料理なので、ツルッといけてしまうはず。油っこい料理を食べたあとの、爽やかなトマトゼリーの喉越しはなんの罪悪感もない。
僕はつくづく思うのだけれど、トマトほど有能な食材はないんじゃないだろうか。肉にも合うし魚にも合うし(サバ缶のトマト煮美味しいんだよなあ)、スープにも合う。主役として目立たせることもできれば、脇役に徹することもできる。
こんな有能多彩なトマトを料理に使わない手はない。明日から、いや今日からトマト料理に親しんで少しでもトマトの美味しさを再認識してもらえたら、トマト大好き派の僕としては本望だ。