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「黒い粉」バクチャーが全国の水辺に撒かれてしまった話

黒猫ドラネコ
偏愛・脳汁を語るサイト「ヲトナ基地」では、多数の「愛しすぎておかしくなるほどの記事」をご紹介してまいります。 ヲトナ基地で今回紹介する記事は「「黒い粉」バクチャーが全国の水辺に撒かれてしまった話 」。黒猫ドラネコさんが書かれたこの記事では、効果が明らかではない水質改善の活動について、「トンデモ観察」を偏愛する視点から語ってもらいました!

きっかけは道頓堀

その粉について、私が初めて認識したのは2020年の夏の終わりでした。

Twitter(現:X)に、大阪・道頓堀川の画像が流れてきました。今のように水質改善事業が進んでいく少し前の話です。台風の影響なのか濁って緑色になってしまった川面と、すっかり綺麗になった様子のビフォーアフターでした。「バクチャー撒いたらたった3日でこんなに綺麗になったんだって(絵文字略)」という一文に添えられて。

思わず「???」となった私は、その「バクチャー」について調べました。そこには、眩(まばゆ)さに目を覆いたくなるような、晴天の水面よりキラキラした世界が広がっていたわけです。それ以来、時々は飽きつつも定期的に観察するようになり、(いろんな意味で)今でも最も好きなウォッチ案件かもしれません。

道頓堀川の水辺整備(大阪市のホームページより)

https://www.city.osaka.lg.jp/kensetsu/page/0000010881.html

バクチャーとは「Back to the Nature(自然に還る)」の略で、岡山県にあるRBCコンサルタント株式会社が製造しています。同社の説明などによると、中国地方で採取される多孔質火山礫(かざんれき)を焼いて砕いた黒い粉で、水に撒くと微生物たちのすみかが増え、分解作用が活性化することによって水質を改善に向かわせるとのこと。

トイレ用の製品や飲むエキスなども販売され、手広くやっているようです。有料の工場見学ツアーは有名タレントがYouTubeで紹介したり、スピリチュアル系のインフルエンサーが施設のすごさや粉の魅力を宣伝したりといろいろと派手なものでした。

ツアーでは、なんとバクチャーを使えば金魚が泳いでいる水も飲むことができるとして、実際に飲ませてキャッキャと喜ばれていて……。支持者のブログ投稿で初めてこの様子を見た時にどんより淀んでしまった私の思考回路は、バクチャーがあればなんとかしてくれたのでしょうか。

海や川には効かないのでは

そんな感じの、好きな人には好きな粉(うまく言ったな)ですが、実はバクチャーの仕組み自体は嘘やインチキではなく、熱帯魚の水槽などに敷かれる石や砂で同じようなものがあるようです。狭い範囲であれば、消臭や水質改善もある程度は見込めるのでしょう。

問題は、河川ましてや湖や海が変わるのか。「1トンの水に30グラムでいい」なんて説明も見ましたが、どれほどの根拠なのか疑念は消えません。人の手からパッパと撒いたところで、水中にどれほど残るのでしょうか。

前述の道頓堀川も、街中の穏やかな川とはいえ上流と下流がありますから、浮いたものは確実に流されてしまいます。巨大な固形物にして何個も沈めたり、トラック何杯分を敷き詰めたりできれば話は別でしょうが、水面に振りかけたぐらいでは微粒子となって彼方へと去ってしまうわけです。流れのある河川に撒くのは無意味で、悪く言えば不法投棄、よく言ってもただの自己満足でしょう。

全国各地にばら撒く隊員たち

しかし、人は「善行」と信じ込んでしまえばそれを広めたいものなのでしょうね。微生物と同じようにコロニーをつくってしまいました。

「ばら撒くチャー隊」というFacebookグループがあります。この隊員たちが文字通りバクチャーを撒く活動を展開しました。現在の参加者数は2万人近く。そおっと覗いてみると、今は一旦活動休止となって久しく、無関係な投稿で溢れていました。

この隊の創設メンバーにバクチャー製造会社の近親者がいて、リーダーもその友人だというのがもう…。みなまでは言いませんが、最高にいい具合でした。

製造会社との連携プレーもありつつ、かくして、ばら撒くチャーの隊員らによって、合言葉なのか見えないエネルギーのラブ注入なのか、「弥栄~(いやさかぁ)」と唱えながら撒くという謎のルールをともない、バクチャーは全国各地に撒かれまくってしまいました。あーあ。

日本中の隊員はまるで「ポケモンGO」みたいに、ここにもそこにもあそこにもと地図に印を付けながら、撒いた場所をグループ内で共有していくのですが、それが過熱したのか私有地に勝手に入り、農家の溜め水に投入したことによるトラブルなどもあったようです。皇居に撒こうとする突き抜けた人まで出現する始末。

(バクチャーが撒かれた場所を記録した地図)

https://www.google.com/maps/d/u/0/viewer?ll=40.778510156753455%2C138.78230096874998&z=5&fbclid=IwAR2MgplxlUj4FT-0yLWlbcQ81dc4-HfdZGaqoRQwpIzCGZiTngVZ3xXEVh4&mid=1rnpkkyRgcypvLkZgyMkZ4CkyZ-q4io31

琵琶湖にまで謎のマシン

さて、この流れで驚くべきことに「近畿の水瓶」琵琶湖にもバクチャー関連の謎のマシンが設置されてしまいました。Facebook投稿によると湖のほとりに設置され、「ある日本人が発明した超音波技術」とバクチャーが融合したそうで、24時間体制で水を取り込んで循環させているとのこと。またもや関連会社の製品らしいのです。

もし何らかの「実験」なのだとしたら、日本最大の湖を機械一つでなんとかしようとする心意気だけは買いますし、個人的には思考すら放棄するような勢いを愛しています。(無理して「偏愛」の要素を入れるなって)

今現在もマシンが稼働しているのかは不明ですが、国土交通省・近畿地方整備局琵琶湖河川事務所では、この事態を懸念する令和2年の投書に対し「当該製品の散布については、SNS等で情報は把握しております。現状、水質への悪影響は確認できていませんが、引き続き関係機関と協力し、環境への影響、違法な河川使用となっていないか情報収集をしてまいります」と回答していました。

(琵琶湖河川事務所の返答はこちら)

https://www.kkr.mlit.go.jp/biwako/info/faq/qlist/qlistb/b162.html

とりあえず、もう4年が経っていますが、滋賀県や国は早く水質改善の結果を公表してもらうか、違法だった場合は厳しく対処してもらいたいものです。

「琵琶湖の水が海へと流れて地球を循環してどうのこうの」との投稿を見かけました。許可を得た池や水たまりに撒いて満足するぐらいにしておけばいいのに、バクチャーを信奉する方々は、本当に世界中に撒けばいいと思っているフシがありました。自然の力を信じているのは分かりますが、同時に自然をナメていると思います。辛辣な意見で恐縮ですが、海ってそんなのでどうにかできるほど小さくありませんからね。

現在もちらほら賞賛するSNS投稿を見かけますが、バクチャー自体は各通販サイトからも購入でき、60グラム5500円ほどでした。これらは自宅の池などに使えるみたいですが、今も好きな人は好きなのでしょう。

全国各地へのばら撒く活動のブームを振り返ると、水が綺麗になったかどうかは主観ばっかりでしたが、「水を綺麗にしたい」という人々の純粋さに目をつけ、撒いてなくなっていく物を延々と買わさせ続けたわけです。

地球上に水辺と善意がある限り需要が続くわけで、事の善悪などを無視すれば、ビジネスとして「うまい手」でした。

なんと大阪湾にも

最後に、大きく報じられはしませんでしたが、この黒い粉を愛する大阪府の某自治体の某市長が大阪城の濠に勝手に撒いてしまい、大阪市の担当部署に問い合わせが入るという事態も起こっていました。ばら撒くチャー隊のグループ内に某市長が謝罪した投稿が共有される形で「無許可はダメよ」的な注意喚起があり、これがいろいろなトラブルとも重なって隊員たちの元気がなくなっていったものでした。

しかしこの市長、なんと自分の市とバクチャー関連会社との包括連携協定を結んでしまいます。市議会などで異議を唱える人は誰もいなかったのでしょうか。これにより、前述の琵琶湖に設置されたあのマシンが、やはりこの市の海岸に導入されてしまっています。マジなんですよ、これが。

来年はその近隣で大阪万博が開催される予定です。大阪湾の水質改善の話など何らかの形で、ついにバクチャーにスポットライトが当たる日が来てしまうのでしょうか。公的なものが関わっているとなれば、ちょっと「純粋さ」だけでは済まされません。本当に科学的根拠をもって認められることだったのか、バクチャーを撒くブームが去った今も要注目です。

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